公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究は、輸送体間物理的相互作用の網羅的解析により輸送体超複合体を同定し、加えて膜タンパク質の網羅的発現変動解析により輸送体の共変動情報を得て、両者をin silico上皮輸送モデル構築のための基盤情報として統合することで、輸送機能間のクロストークの予測を目指している。輸送体は独立して輸送機能を発揮するだけでなく、足場タンパク質などを含む超複合体を形成し、そのなかで相互に機能共役して高次の輸送機能を実現する。しかし代表者は尿酸輸送体超複合体の解析の過程で、尿酸輸送と機能的な関係を持たない輸送体等がその中に含まれていることを見いだした。これは、直接の機能共役が想定されない輸送体間にも物理的相互作用に基づく細胞膜上での共安定化等を介した輸送機能間のクロストークが生じる可能性を示していると考えた。そこで本研究では、小分子上皮輸送モデルのさらなる最適化に貢献する目的で、すでに明らかにした輸送体間の直接的な機能共役に基づく輸送機能間相互作用に加え、直接的な機能共役によらない、物理的相互作用を介した機能クロストークの予測を可能とする基盤情報の取得を進めている。平成25年度は、プロテオミクスを用いた小腸・腎皮質上皮細胞、さらに複数の臓器における細胞膜輸送体および関連因子の網羅的同定を進めた。さらに、プロテオミクスを用いた小腸や腎臓に発現する遺伝子のKOマウスやTGマウス、KIマウス等をもちいて、小腸・腎皮質上皮細胞に発現する膜タンパク質の網羅的発現変動解析を行った。これにより、機能クロストークの予測を可能とする基盤となる情報が揃いつつある。また、プロテオミクスを用いた輸送体超複合体の探索と構成因子の同定を進め、輸送体超複合体を捉えつつある。
2: おおむね順調に進展している
上皮の輸送体及び関連タンパク質の相互作用及び発現の共変動を網羅的に解析してその機能クロストークを実証し、物理的相互作用・発現共変動情報を統合した輸送体の相関モデルを構築するため、平成25年度は申請者らの開発した膜タンパク質解析に最適化したプロテオミクス法を用いて、小腸・腎を含む数種類の臓器からの細胞膜上の輸送体を含むタンパク質を網羅的に同定した。例えば、マウス腎膜画分からは6000以上のタンパク質の同定・定量に成功し、脳では4000以上、小腸では3600超の分子の質量分析が可能になった。さらに複数の輸送体に対する抗体を用い、細胞膜上の輸送体超複合体を精製し、構成因子を質量分析計で同定した。その結果、惟amで相互作用しないと考えられていた輸送体間の相互作用が確認できた。また異なった性質の界面活性剤や塩濃度を用いることで、相互作用の強弱を区別した輸送体超複合体の解析を進めた。今後、詳細な検討を行い、相互地図の作成を試みる。さらに、KOマウスや疾患モデルマウスを用いて、細胞膜上の輸送体存在量の共変動を網羅的に比較定量した。その結果、有機酸輸送体のKOマウスにおいて同様の基質を運ぶ輸送体の変動が見えたほか、疾患モデルマウスではこれまで知られていなかった機能的相互作用を示唆する輸送体の発現変動が見られた。
平成26年度に開始した輸送体超複合体の解析をさらに進める。弱い相互作用で結合している複合体を単離するために、化学架橋剤を用いる。また化学架橋剤の反応基間の距離が異なったものを使用することで因子間の距離を測定することも可能であるため、距離に関する情報の取得を試みる。さらに特定の輸送体(例えば尿酸輸送体URAT1)を含む超複合体に着目し、複合体に含まれる因子の量比を決めるため、絶対定量を試み、精製した複合体中のそれぞれの因子の分子数を測定する。URAT1の細胞膜全体における絶対量、関連因子の量比も測定し、さらに密度勾配遠心分離法により細胞膜全体に対する超複合体内のURAT1の割合を求める。これにより、定量的な膜輸送系モデルを作成するための情報を取得する。得られた相互作用情報のうち、これまで報告の無かったものに関して、精製タンパク質を用いて物理的相互作用を確認し、さらにその物理的相互作用がそれぞれの輸送体の輸送機能に及ぼす影響をキネティクス解析により明らかにする。輸送体超複合体には輸送体以外に酵素などの可溶性因子が含まれる場合も想定し、その因子を同定する。機能への影響が見られなかった場合は、培養細胞やアフリカツメガエル卵母細胞を用いて、細胞膜上でのタンパク質安定化への超複合体形成の寄与を検討する。これまでの研究において取得した網羅的情報をもとに上皮における輸送体の相互作用情報および発現変動情報をまとめ、領域内共同研究により上皮における小分子輸送体相関モデルを作成する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 6件)
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