研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
25136716
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大戸 茂弘 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00223884)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 薬学 / 生体リズム / 時計遺伝子 / 薬物移送 / 階層性 |
研究概要 |
生体には、体内時計が存在し、時計遺伝子により制御されている。異物の代謝や排泄に関わる多くの代謝酵素やトランスポーターも日周リズムを示す。シスプラチン (CDDP) は、固形癌に幅広く使用されている白金系抗がん剤であるが、副作用として腎障害があり、CDDP 療法の用量規制因子になっている。近年、腎臓において CDDP を輸送するトランスポーター Organic cation transporter 2 (OCT2) と Multidrug and toxin extrusion 1 (MATE1) が CDDP 誘発性腎障害に重要な役割を担っていることが明らかにされた。一方、この腎障害は CDDP の投薬時刻により異なることが知られているが、その機序は明らかにされていない。そこで、マウスを対象に CDDP 誘発性腎障害に及ぼす投薬時刻の影響について検討し、その機序を体内時計の分子機構の側面から解析した。 CDDP による腎障害は、マウスの活動期である暗期に投与することで軽減された。また、CDDP の腎クリアランスは暗期に高値を示し、腎 DNA に蓄積する Pt の量は低値を示した。マウス腎臓での CDDP の排泄に関わるトランスポーター Slc22a2/OCT2 の発現量は、暗期に低値となる有意な日周リズムを示した。一方、Slc47a1/MATE1の発現には有意なリズムは認められない。このことから、腎臓における OCT2 の発現リズムが腎臓細胞中へのCDDPの蓄積量の投薬時刻による差異を引き起こしていることが示唆された。Slc22a2/OCT2 の発現リズムは転写レベルで生じていること、そしてCLOCK が PPARα を介して Slc22a2 の発現量に日周リズムを引き起こしていることを明らかにした。以上のことから、CDDP 誘発性腎障害の投薬時刻による差異の機序として、分子時計が関与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シスプラチン (CDDP) による腎障害には、投薬時刻による有意な差異が認められた。その機序として、腎臓細胞中へのCDDPの蓄積の日周リズムが関与していることを明らかにした。また腎臓における マウス腎臓での CDDP の排泄に関わるトランスポーター Slc22a2/OCT2 の発現リズムが関与していることを明らかにした。さらにCLOCK が PPARα を介してSlc22a2/OCT2 の発現リズムを制御していることを明らかにした。以上のことから、CDDP 誘発性腎障害の投薬時刻による差異の機序として、分子時計が関与していることが明らかとなり、体内時計と腎臓における異物排泄機構との分子レベルでの関連性が示唆された。その他のトランスポーターについても解析を進めており、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年実施した実験1~3に加えて、実験4および実験5について、検討する。 実験1:マウスの各種臓器におけるトランスポーターおよび時計遺伝子の発現リズムを測定する。実験2:トランスポーターの発現リズムの転写制御機構をin vitroで解析する。実験3:マウスの各種臓器におけるトランスポーターのプロモーター領域における時計遺伝子の結合を解析する。 実験4:時計遺伝子変異マウス、腎障害マウス、時間制限摂食マウスを対象にトランスポーターの日周リズムが如何に変容するかを、遺伝子レベル、臓器レベル、個体レベルで階層的に解析し、リズム調整因子を探索する。 実験5:生体で認められる時計遺伝子など周期的変動遺伝子のリズムをin vitroで再現する実験系を構築し、トランスポーターの発現リズムを詳細に解析し、リズム調整因子を確定する。
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