研究概要 |
本研究の目的は、ヒト固有心筋細胞モデルを用いた細胞~組織レベルでの数理生理学的解析により、1.早期後脱分極(EAD)発現・伝播の機序と合理的制御方法、2.ヒト固有心筋由来バイオペースメーカー開発・機能強化のための合理的イオンチャネル発現制御方法を明らかにすることである。 平成25年度は、まず我々のヒト心室筋細胞モデル(Kurata et al, Biophys J 83:2074-2101, 2005)及び近年公開されたモデル(O'Hara et al, PLOS Comput Biol, 2011;Carro et al, Phil Trans R Soc A, 2011)を用い、QT延長症候群(LQTS)症例の病態と臨床・実験データ(変異チャネルの電気生理学的特性)を基に、遅延整流カリウムチャネル電流(遅い活性化成分IKs又は速い活性化成分IKr)の抑制(LQT1,2)或いはナトリウムチャネル電流(INa)非不活性化成分の増大(LQT3)を設定して、EADを再現できるヒト心室筋LQT1-3モデル細胞を作成した。さらに、ヒト心室筋細胞モデルのパラメータ依存性分岐パターンを非線形力学系の分岐理論に従って解析するための分岐構造解析システムを構築した。ヒト心室筋細胞モデルのパラメータ(IKr, IKs及びL型カルシウムチャネル電流のコンダクタンス等)に依存した分岐構造を解析することにより、ヒト固有心筋におけるEAD発現の条件、力学的機序に関する以下の結論を得た:1.EADは脱分極領域のホップ(平衡点安定化)分岐点近傍で生じる。2.LQTSではシステムのEAD発現領域への近接化(又は領域拡大)によりEAD発現が促進される。3.EADの発現パラメータ領域はIKsのコンダクタンスに依存して拡大し、EADは「遅いIKsの活性化に伴って消失する一過性の周期軌道」と考えることができる。
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