研究実績の概要 |
回転分子モーターF1-ATPaseにおけるATP加水分解反応の触媒に重要な役割を果たすαサブユニット上のアミノ酸残基、アルギニンフィンガーの役割を調べるため、アルギニン残基を非天然アミノ酸である2,7-diaminoheptanoic acid(Lyk)に置換した非天然型F1-ATPaseを創生した。具体的には、アンバーコドンを利用して非天然アミノ酸を導入したαサブユニットを無細胞タンパク質発現系で合成し、β、γサブユニットを発現させた大腸菌の破砕液と混合することで再構成させる手法を確立した。 さらに、創生した非天然型F1-ATPaseの1分子回転観察で機能解析を行った。ATP存在下で、非天然型F1-ATPaseは野生型と同様、回転子から見て反時計回りの回転運動を示した。しかしながら、最高回転速度は0.2rpsと野生型の1/500程度に大きく低下しており、高濃度[ATP]においても120度間隔の3か所の停止が観察された。また、ATPの結合速度定数は6.5x10E6 M-1s-1と野生型の1/3程度であった。低濃度[ATP]と高濃度[ATP]の溶液交換実験の結果、長くなっているのは40度サブステップ前の停止であることが明らかとなった。また、ATPγSを基質に用いた1分子回転実験では停止の長さが30倍長くなった。さらに、溶液中に過剰の無機リン酸を加えた際の回転運動への影響は野生型と変わらなかった。これらの結果から、非天然型F1-ATPaseは野生型に比べ、ATPのリン酸結合の開裂が非常に遅くなっていることが明らかとなった。
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