研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
26102511
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
養王田 正文 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50250105)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生物物理 / 生体分子 / シャペロン / スモールヒートショックプロテイン |
研究実績の概要 |
研究計画では分裂酵母由来sHsp(SpHsp16.0)を対象に研究を行う予定であったが、ヒトや動物細胞のsHspとはアミノ酸配列及び構造変化・機能発現機構が異なり、細胞壁を有する分裂酵母では細胞内でのsHspの基質の同定なども難しいことから、動物細胞由来sHspを対象とすることにした。培養が容易で工業的にも重要なChinese Hamster Ovary細胞(CHO)由来sHspを対象とすることにした。動物細胞には多数のsHspが存在するが普遍的に存在するHsp27(HSPB1)を用いて研究を行った。CHO細胞由来Hsp27の配列情報を基にプライマーを設計し、CHO細胞のmRNAから逆転写PCRによりHsp27のcDNAを獲得した。Chinese Hamsterの学名Cricetulus griseusからCgHsp27と命名した。動物細胞由来sHspはリン酸化により機能が制御されていると言われているが、微生物由来sHspと同様に温度上昇でも構造変化・機能発現をすると考え実験を行った。45℃で豚心臓由来クエン酸合成酵素(CS)の熱凝集抑制活性を調べたところ、モノマーとしてのモル比でCSに対して24倍程度のCgHsp27加えると熱凝集による光散乱を抑制した。また、HPLCを用いたゲルろ過では、他のsHspと同様に温度上昇に伴いオリゴマーが減少することを示す結果を得た。しかし、濃度の上昇に伴いオリゴマーの解離が不完全になり、30nM程度では55℃でもオリゴマーはほとんど解離しなかった。さらにX線小角散乱(SAXS)による解析でもオリゴマーの解離は確認されなかった。この結果から、CgHsp27は他のsHspと同様に生理的条件ではオリゴマーの部分的な構造変化によりシャペロンとしての機能を発現することが分かった。また、SEC-MALSでオリゴマーの絶対分子量を解析したところ16量体で存在することが分かった。この結果はSAXSのデータとほぼ一致していた。さらに、SAXSのデータから3次構造を再構成したところ、SpHsp16.0と同様に楕円体構造であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定とは異なるsHspを対象に研究を進めることになり、CHO細胞由来sHsp(CgHsp27)を発現から行うことになり、構造変化などに関する研究は当初の計画に対して遅れている。しかし、動物細胞のプロテオスタシスにおいて重要な役割を担っているsHspの構造と機能発現に伴う構造変化の解明という観点では、優れた研究材料を獲得し従来未解明であったHsp27のオリゴマー構造を解明することに成功し、オリゴマー構造に転移によりシャペロンとして機能を発現することを明らかにしたことから、実施的に目的を達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
CgHsp27の結晶化を行い、結晶構造の解明を試みる。動物細胞の細胞質内ではsHspは主にリン酸化により機能が制御されている。そこでリン酸化部位を予測し、アスパラギン酸に変換したリン酸化模倣体を構築し、その構造と機能を解析する。また、ストレプトタグを付加したCgHsp27をCHO細胞で発現し、アフィニティクロマトグラフィーによる精製を行い、質量分析により基質となるタンパク質群を特定する。さらに、基質となるタンパク質を用いて結合部位の解析などを行う。また、興味深いことにCHO細胞は卵巣細胞由来にも関わらず、精巣特異的sHspであるHSPBが発現している。様々な精巣特異的な遺伝子ががん細胞で発現していることが知られている。HSPB8が、CHO細胞の特性に影響を与えている可能性があることから、その機能構造及び細胞内での機能に関する研究を行う。
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