研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
26102524
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 正明 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (10253395)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | SANS / 重水素化 / サブユニットt交換 / クリスタリン |
研究実績の概要 |
中性子散乱の特徴の一つは同位体効果であり特に軽水素と重水素間ではその差が著しく大きい。本研究ではこの差を用いてタンパク質のサブユニットに同位体標識を行い、これまでは測定困難なタンパク質間の動的な平衡現象を測定することを目的としている。 今年度は、水晶体内タンパク質クリスタリンのホモオリゴマー間のサブユニット交換現象に注目して、そのKineticsno解明を行った。水晶体の2/3が水であり残り1/3がほぼタンパク質である(その他1%のミネラルが存在する)。タンパク質のほとんどは3種類(α・β・γ)のクリスタリンであり、αクリスタリンはシャペロンとしてそれ自身と他のクリスタリンの凝集を抑制していると考えられている。このαクリスタリンはαAクリスタリンとαBクリスタリンの2種類のサブユニットが30程度会合しているヘテロオリゴマーである。興味深い点はαクリスタリンにおけるαAクリスタリンとαBクリスタリンの比率は加齢とともに変化している(αBクリスタリンの比率が増加する)事と外部刺激に対する耐性が異なっている事(αAクリスタリンはUV照射に対して構造耐性が高いが温度変化に対する構造耐性は低い。αBクリスタリンは逆)である。前者はサブユニット交換等の動的な秩序が存在する可能性を示唆しているが、2つのサブユニットは相同性が高くその存在を確認することは困難である。そこで、まず軽水素化αAクリスタリンオリゴマーと重水素化αAクリスタリンオリゴマーを調製し、その混合溶液における両者の散乱挙動を測地することでサブユニット交換の有無とそのKineticsの観測を行った。その結果、αAクリスタリン間でサブユニット交換現象が存在し、3個のサブユニットが比較的ように交換していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでプロテアソームα7リング間でのみに観測された交換現象が他のタンパク質(αAクリスタリンオリゴマー)でも存在することを証明することに成功し、会合性タンパク質ではこのような動的秩序の存在が比較的普遍的で現象であることを証明できた。また、より複雑な系(3元系など)に手法的適用のために重水素化度を制御したタンパク質の調製が重要であるが、ほぼ成功している事が挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、より一般的なクリスタリンの系(αAクリスタリン+αBクリスタリン、αクリスタリン+βクリスタリン)に拡張し、これらの系での動的秩序とクリスタリンの機能との関係解明を進める。また、手法開発として75%重水素化タンパク質の調製手法の確立とそれを用いた新しい同位体標識を用いたより複雑な系でのサブユニットダイナミクスの測定手法の開発を進める。
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