研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
26102527
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松森 信明 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50314357)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 脂質ラフト / スフィンゴミエリン |
研究実績の概要 |
脂質ラフトは、コレステロールやスフィンゴミエリンに富んだ秩序の高い領域で、生理的に重要な役割を果たしている。しかし、脂質ラフトは生成と崩壊を繰り返しつつ自己組織化しているため、その分子基盤や動的秩序は未解明である。申請者はこれまで安定同位体標識した脂質の化学合成とNMRを組み合わせる独自のアプローチで、脂質ラフトにおける脂質の動的挙動および分子間相互作用の解明に取り組み、成果を挙げてきた。そこで、本研究では、NMRに加えて、時間分解能の高い蛍光寿命測定を導入し、脂質ラフトに形成される短寿命の脂質ナノクラスターの解析にあたった。さらに蛍光標識スフィンゴミエリンの合成とその共焦点蛍光顕微鏡観察を行い、ラフト膜における脂質の動的秩序の高感度解析をおこなった。これらの解析の結果、脂質ラフトに関する新たな知見を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度に予定していた「脂質頭部の動的秩序の探査」に関しては、スフィンゴミエリンの頭部を重水素化した標識体の合成に成功し、現在重水素NMRの測定を開始している。また、「時間分解能の短い分析手法の導入」については、フィンランドのグループと共同で蛍光寿命測定によるラフトの動的挙動解析実験を終了し、これまで申請者が行ってきた重水素NMRによる動的挙動解析と詳細に比較検討を行い、新しい知見を得ることができた。これについては現在論文投稿の最終段階に入っている。さらに、蛍光標識脂質の合成とその蛍光顕微鏡によるラフトの観察を順調に行い、拡散係数の測定や京大と共同で一分子観察にも成功した。これについても、現在論文準備中である。 以上26年度は予定通り順調に研究が進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、26年度に行った分析手法をより複雑な脂質膜系に適用し、その動的秩序を明らかにする。特に、実際の生体膜を用いて脂質の動的秩序を観察していく。脂質ラフト形成が担保され入手容易な赤血球を用い、これに重水素標識や蛍光標識した脂質を導入して重水素NMRや蛍光顕微鏡、蛍光寿命等の測定を行う。これにより、in-cellでの脂質の動的秩序解析を行う。ただし、重水素NMRは測定感度やバックグラウンドが問題となる可能性が高いが、申請者はフッ素標識したSMやコレステロールもすでに合成しており、その化学シフト異方性から脂質膜中での動的挙動を解析する手法も報告している(J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 4757)。フッ素は生体試料のバックグラウンドが低く、しかもプロトンに次ぐ感度を有するため、重水素NMR測定が困難な場合に有用である。 このようにして、生体膜における脂質ラフトの分子基盤を明らかにし、脂質の挙動秩序と生命機能の関係を解明する。
|