公募研究
蛋白質の細胞内ダイナミクス解析では,TTHA1718とGB1蛋白質について,in-cell NMRにパラメータを最適化したT1,T2緩和実験,DEST法測定を行い,in-cellとin vitroでNMR緩和速度に明らかな違いがあることを再度検証した.以前の測定データはin-cellデータが特にS/N比が低いために不明瞭なデータ点が見られたが,本年度の再計測により,以前より明確に違いを示すことができた.現在,細胞内で蛋白質が具体的にどのような状態をとっているか,複数の異なる平衡状態を仮定したモデルで,実験値を解析している.不安定構造を有する蛋白質の細胞内構造解析では,主にDrk-N SH3ドメイン蛋白質について解析を行った.Drk-N SH3は,至適緩衝液下でfold-unfoldが混在して存在するという性質を持つ.これまで大腸菌を用いた系については,そのスペクトルパターンから,fold-unfoldの存在比が,in-cellとin vitroで異なることを示してきたが,本年度はさらにHeLa細胞の系でも大腸菌と同様な傾向を持つことを確認した.HeLa細胞においても,fold構造のシグナル強度が弱まり,unfold構造のシグナルがより明瞭に得られたことから,細胞内でunfold構造の存在比が増加しているものと現在推定している.当該領域内での共同研究も2件開始した.1件は,β-PN蛋白質を用いた蛋白質の新たな細胞内への導入法の開発である.現在のところ,研究は順調に進行しており,この手法を用いた細胞内NMRシグナルの観測にも成功した.しかしながら,まだ解析に十分なスペクトルは得られていないため,さらに細かく条件検討を進める.別の1件は,NMR立体構造計算にレプリカ置換法を導入し,計算の効率化を図ることを目的とした共同研究である.これについては,具体的なコードの実装を開始した.
3: やや遅れている
TTHA1718とGB1蛋白質を用いた蛋白質の細胞内ダイナミクス解析では,解析に必要な実験データはほぼ揃ったため,次年度の早い段階で,これらデータを詳細に解析し,投稿論文として発表予定である.したがって,ダイナミクス解析については,今年度の予定の目的はほぼ達成された.一方で,不安定構造を有する蛋白質の細胞内構造解析は,蛋白質試料作製に予想以上に時間を有してしまい,当初の計画ほど様々な条件下でのNMR測定ができなかった.当初予定では,大腸菌,HeLa細胞に加え,Sf9細胞を用いたNMR測定も行い,3つの異なる細胞間での差異を今年度中に検証する予定であったが,Sf9細胞を用いた系では蛋白質発現の系の確立が,現在難航している.一方で,Drk-N SH3に結合するペプチドとの複合体の解析は,in vitroの系で確立できたことから,今年度の早い段階で細胞内でのNMR測定も行う予定である.
Drk-N SH3ドメインの蛋白質解析では,結合ペプチドとの複合体が細胞内でどのような構造を保持するかについて最も興味が持たれる.Drk-N SH3は,至適緩衝液下で,単独ではfold-unfold構造がほぼ1:1に存在する一方で,複合体を形成するとfold型に構造が大きく傾くことが分かっている.次年度は,この傾向が細胞内でどのように変化するかについて,特に重点的に解析を進めていく予定である.また,Sf9を用いた蛋白質発現系の構築は,現在最も難航している.ウイルス摂取量等を再検討して,NMR測定に必要な発現量の得られる条件を検討する.細胞内のダイナミクス解析は,必要とされるデータはほぼ揃ったことから,これらを詳細に解析し,早い段階で専門誌に発表する.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (21件) (うち招待講演 7件)
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 457 ページ: 200-205
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