超分子・生体分子の量子化学計算により、領域内共同研究の研究成果を挙げただけでなく、若手の会やサイエンスカフェなどによるアウトリーチ活動も積極的に参画し、本新学術研究領域の推進に貢献してきた。以下、代表的な研究成果として、本領域研究計画班メンバーとの3件の共同研究成果を述べる。 平岡教授との共同研究: 平岡らは、メチル基を持つ歯車状両親媒性分子(1)が、25%含水メタノール溶媒中で一義的に立方体(16)に自己集合することを見出した。一方で純粋なメタノール溶媒中は自己集合をしないことも見出した。本研究では自己集合が見られないメタノール溶媒中の16の立方体構造崩壊過程を長時間分子動力学計算により追った。その結果、短時間分子動力学計算でみられた水素置換基の立方体構造崩壊と類似した崩壊過程を示すことがわかった。 上久保准教授との共同研究: 上久保らは、Photoactive Yellow Protein (PYP) におけるGlu46とp-coumaric acidの間で、低障壁水素結合を形成していることを見出した。昨年度、ONIOM (MC_QM:MM)法を用いた量子化学計算を行うことで、核の量子揺らぎによって、実験で観測されたのと同様な結合伸長が起きることを実証した。本年度、大規模な非調和振動計算を実施することにより、構造に関する同位体効果(幾何学的同位体効果)を再現することにも成功した。 加藤教授、神谷講師との共同研究: 加藤、神谷らは、methyl-α-D-glucopyranosideの円偏光二色性(CD)スペクトルのH/D同位体シフトを実験的に見出した。そこで我々は、当初研究計画にはなかったものの、ONIOM (MC_QM:MM)法を用いた量子化学計算を行うことで、その発現機構を解明した。
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