生体膜を構成する脂質二重膜には,最大で30%程度のコレステロールが含まれている.コレステロールが添加されると,脂質二重膜の特性が大きく変化することが予想される.研究代表者らは,コレステロールを30%含むDPPCリポソーム脂質二重膜を調製して,このコレステロール含有脂質二重膜の中にプローブ分子としてtrans-スチルベンを可溶化した.可溶化されたtrans-スチルベンを最低励起1重項状態に光励起するとともに振動余剰エネルギーを与え,その後の最低励起1重項状態での冷却過程をピコ秒時間分解ラマン分光法で測定した.この実験で得られたコレステロール含有脂質二重膜中でのtrans-スチルベンの振動冷却の速度定数から,コレステロール含有脂質二重膜の熱拡散定数を見積もった.さらに,ピコ秒時間分解蛍光分光法によって脂質二重膜中でのtrans-スチルベンのtrans-cis光異性化反応の速度定数を測定して,この結果をもとにコレステロール含有脂質二重膜の粘度を見積もった. A03班の加藤晃一教授および同教授の研究分担者である山口拓実准教授および矢木真穂助教との共同研究を開始した.「生体膜の表面が糖鎖で修飾されている場合に,生体膜自体の物性が糖鎖の影響をどの程度受けるのか」という問題に対する解答を得るために,加藤グループで合成された糖鎖修飾リン脂質を組み込んだ単層リポソーム脂質二重膜を調製し,ピコ秒時間分解けい光分光法によってその脂質二重膜の粘度を評価した. 脂質二重膜の一定の深さにおける粘度を見積もるために,trans-スチルベンで修飾したホスファチジルコリンを蛍光プローブとして開発した.この分子を含んだDMPCリポソーム脂質二重膜の時間分解蛍光測定を行い,その蛍光寿命から脂質二重膜の一定の深さにおける粘度を見積もる方法を提案した.
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