ロタウイルスは病理学的にも構造学的にも非常に多く研究されている無エンベロープウイルスの一つである。しかし、ウイルス粒子が宿主細胞内で実際にどのようにして取り込まれ、複製されて構造的秩序を形成し自己組織化されていくかについての知見はほとんどない。本研究では、ロタウイルスを例としてウイルスの宿主細胞における侵入、複製、放出機構を最先端の電子顕微鏡技術を使って構造学的に解析し、その動的な構造秩序形成の過程を明らかにする。そして、これをもとに新しい自己組織化のモデルを提案する。 本年度は、複製過程、特にViroplasmと呼ばれるタンパク質凝集体との関係について、連続ブロック表面走査電子顕微鏡(SBF SEM)を用いて解析した。しかし、ウイルスとViroplasmとの相互作用の様子を解析するには十分な解像度が得られないことがわかったため、解析法を連続超薄切片(各~30 nm)による立体再構築に切り替えた。その結果、宿主内においてほぼ完全な形のウイルス粒子がViroplasmの周辺に密集して現れる様子が観察された。これにはすでに核酸もパッケージされていた。このことから、ウイルス粒子はViroplasm内で形成され、核酸も挿入された後、ほぼ完成した状態でViroplasmの表面から放出されると推定された。Viroplasm内は非常に密度の高いアモルファスな構造になっており、形成過程のウイルス粒子を観察することはできなかった。今後、ロタウイルス粒子の形成過程の構造解析には、宿主細胞外での系が必要であることが示唆された。
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