公募研究
細胞膜の受容体蛋白質が細胞外情報に応答して動的に会合体の組み替えを起こし、細胞内外の蛋白質分子との特異的な反応場を形成する過程の理解を目標として研究を行っている。細胞膜における、上皮成長因子受容体(EGFR)・代謝型グルタミン酸受容体(mGulR)の1分子動態が研究対象である。本年度は主として、EGFRの動態解析に取り組んだ。EGFRはリガンド結合依存的な2量体を形成して相互リン酸化により活性化する。2量体を越える高次会合体の形成も観察されてきたが、高次会合の分子機構や生理的意義は不明であった。今回、GFPを融合したEGFRの1分子計測により、リガンド結合前の受容体が側方拡散係数の異なる3つの運動状態、単量体から主として4量体までの会合状態をサブ秒で遷移していることが明らかになった。ほとんどの受容体分子は単量体あるいは2量体として、100 nm以下の膜領域に隔離されている。リガンド結合により、会合体特異的に一時的な運動範囲が拡大することによって、1分以内に3,4量体の形成が促進され、会合体は運動停止状態に入る。会合にはEGFRの細胞外ドメインが、その後の停止には細胞質ドメインが必要である。活性型EGFRを認識する細胞質蛋白質Grb2との1分子共局在計測によって、3, 4量体を中心とするEGFRの高次会合体において、特異的に結合寿命の長いGrb2との相互作用が観察され、高次会合体が主要な情報伝達場であることが分かった。これらの結果は、リガンド結合とリン酸化による単一EGFR分子の構造変化が、細胞膜での運動・分布・会合体形成といった分子集団としての動態変化と共役して、動的な情報伝達場を形成することが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究計画項目は以下の4つである。全体としては予想通りであり、部分的には予想を上回る速さで研究が進行している。1)細胞膜受容体の1分子蛍光観察:蛍光蛋白質や蛍光標識可能な蛋白質タグを癒合したEGFR, mGluR, セロトニン受容体(5HTR)をCHO-K1, HEK293に発現させて1分子観察を可能にする。GFP, Halo, SNAPタグを用いて導入部位を検討し、計画通り達成できた。2)受容体の運動会合の1分子計測・解析:EGFRに関しては「研究実績の概要」に記述した。mGluRについても解析がほとんど終了している。5HTRは蛍光標識の最適化で、mGluRとの間にFRET信号が検出できるところに達しており、全体として予想以上に順調に進んでいる。3)膜受容体とリガンドの相互作用計測:EGFRに関しては予定した細胞外リガンド(EGF)ではなく、細胞内リガンドGrb2の計測に力を注いだため、当初の予定とは変わっているが、重要な結果が得られた。mGluRはアゴニスト、アンタゴニスト存在下での運動・会合変化を捉えており、こちらも順調に進んでいる。4)受容体と細胞質蛋白質の相互作用計測:EGFRについては、Grb2の他にShcとの相互作用計測が進行している。mGluRは可視化計測はこれからであるが、生化学的な相互作用計測結果が出ており、おおむね順調である。
いずれの研究項目も順調に進行しており、とくに変わった推進方策は必要でないと考えている。従来計画通り、来年度は超解像顕微鏡法なども導入して研究を進める。研究計画には含まれていないが、領域内での新たな共同研究も始まっており、そちらにも力を注いでいく。
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