研究実績の概要 |
私達は、新規アルツハイマー病治療候補薬である ST101 (spiro[imidazo[1,2-a] pyridine-3,2-indan]-2(3H)-one) が T 型電位依存性カルシウムチャネル活性化を介し、認知機能を亢進させることを報告した。本研究では、電気生理学的手法を用い、ST101 よりも強力なT 型電位依存性カルシウムチャネル活性化作用を持つ化合物を探索し、階層的生物評価系を用い、脳機能改善効果を検討した。パッチクランプ法を用い、ST101 の誘導体である spiroimidazopyridine derivatives (SAKs) の中でも特に T 型電位依存性カルシウムチャネル活性化作用が強い SAK3 を見出した。記憶・学習障害モデル動物である嗅球摘出 (OBX) マウスを用い、ST101 と SAK3 の脳機能改善効果を比較した。ST101 (0.5 mg/kg, p.o.) 急性投与では OBX マウスの記憶・学習障害は改善されないが、SAK3 (0.5 mg/kg, p.o.) 急性投与では改善した。この改善効果は T 型電位依存性カルシウムチャネル阻害薬により抑制された。さらに、SAK3 (0.5 mg/kg, p.o.) 急性投与によりアセチルコリン遊離が促進し、この促進効果は T 型電位依存性カルシウムチャネル阻害薬により完全に抑制された。以上の結果から、T 型電位依存性カルシウムチャネル活性化は脳機能の低下を改善し、記憶・学習障害を改善したと考えられる。今後は、T 型電位依存性カルシウムチャネル活性化による記憶・学習障害改善効果について詳細なメカニズムを検討し、記憶・学習に対するT 型電位依存性カルシウムチャネルの生理的な機能を明らかにする。
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