研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
26102707
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
桑原 重文 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30170145)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | strophasterol / steroid / fruiting body / mushroom |
研究実績の概要 |
ステロイド骨格のD環が開裂し,側鎖との間に新たなシクロペンタン環を形成した前例のない炭素骨格を有するstrophasterol類には,キノコの子実体形成誘導ホルモンではないかとの期待が高まっている。本化合物群がキノコ界初のホルモンであることを証明するとともに作用機構解明に向けた研究を推進する上で大きなネックとなっているstrophasterol類の量的供給を目指して,2014年度はstrophasterol Aの全合成に取り組んだ。比較的安価な天然ステロール原料であるergosterolに対して,B環上の2つの二重結合をC環およびD環に移動させ,そのクロム酸酸化によりgamma-ヒドロキシ-alpha,beta-不飽和ケトン中間体を得た。その化合物に対し,二段階の金属還元を行ってD環上にケトン基を有するステロイド誘導体とし,さらに位置選択的シリルエノールエーテル化とRubottom酸化によりalpha-ヒドロキシケトンに変換した。A環部の水酸基を保護した後,alpha-ヒドロキシケトン部位の酸化開裂を検討したところ,常法である過ヨウ素酸酸化やし酢酸鉛酸化では反応が全く進行しなかったが,クロム酸による酸化開裂が高収率で進行することを見出し,合成の最初の課題であったD環部の開裂に成功した。得られたケトカルボン酸をセレノールエステルとした後ラジカル還元を行ったところ,側鎖の二重結合とシクロペンタノン環を形成した化合物を与え,新たに生成した5員環上のケトン基を化学選択的に還元することでstrophasterol AおよびBに特徴的な全炭素骨格を有する重要中間体の構築に成功した。第2の大きな課題を解決したと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全く新規な炭素骨格の構築であったため,過去に前例がなく,D環開裂までに多くの時間を費やす結果となった。また,重要中間体への合成ルートをなんとか見つけることに重点を置いたため,各反応工程の最適化と工程数の削減・効率化が課題として残されている。とは言え,strophasterol類の全炭素骨格を組み上げることができたことは一定の成果だと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は重要中間体の調製の収率向上と工程数の削減について検討しながら,全合成の完成に向けた最後の課題であるA/B/C環部の官能基化を行う。既に得た重要中間体はC環上にケトン基を有しており,そのケトン基を手がかりとしてalpha-位に臭素を導入した後に脱離させalpha,bata-不飽和ケトンを得た後,二重結合のジブロモ化と脱離により,ジエンケトン構造を構築したいと考えている。その後に,電子豊富な二重結合をエポキシ化し,脱離を伴うエポキシドの開環によりstrophasterol Aの全合成を達成する。この最短経路での合成計画がうまく行かない場合でも,エノン系さえ構築できれば,種々の官能基を駆使することでstrophasterol Aに到達できると思われる。strophasterol Aが完成次第,B,C,Dの合成に着手し,全てのstrophasterol類の全合成を達成するとともに,C,Dの立体化学を決定する。strohasterol Aについては,構造活性相関研究とその結果に基づくプローブの調製に取りかかる。
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