研究実績の概要 |
本年度は前年度に引き続き,複雑海洋天然物イリオモテオリド-2aの全合成研究を行った。昨年度末までに,イリオモテオリド-2a提出構造式には帰属の誤りがあることが明らかとなった。そこで,本天然物に含まれる不斉炭素原子の立体配置の帰属を再検証することにした。合成品と天然標品のNMRスペクトルデータを比較した結果,C12/C13の相対配置の帰属に誤りがあり,C13位を起点に相対配置が決定されたC15及びC16位の立体配置も誤っているものと考えた。 以上の経緯から,提出構造式の13,15,16-epi体を新たなターゲット分子に設定した。この際,ビステトラヒドロフラン部分構造は,Sharpless不斉エポキシ化とエポキシド連続環化反応を一挙に達成する新しい戦略で立体選択的に構築することに成功した。その後は提出構造式の全合成法に則り,13,15,16-epi体の全合成を達成した。しかしまたも,合成品の1H及び13C NMRスペクトルデータは天然標品のそれと一致しなかった。
本年度はまた複雑海洋天然物ネオペルトリドの蛍光標識プローブを創出し,生細胞における局在解析を行った。独自の構造活性相関解析の知見を踏まえ,8,9-デヒドロネオペルトリド(8,9-DNP)のC11位を修飾して蛍光色素を連結させ,数種の蛍光標識プローブを取得した。細胞増殖阻害試験と生細胞染色試験でプローブを評価した結果,BODIPY-FLを導入した8,9-DNP-BODIPYが最も優れたパフォーマンスを示した。8,9-DNP-BODIPYとオルガネラマーカーによる生細胞二重染色試験を行った結果,本化合物は主として小胞体に速やかに集積し,親化合物である8,9-DNPにより蛍光染色が競争的に阻害された。領域内の共同研究者による線虫初期胚の染色実験でも同様の結果が得られた。
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