研究実績の概要 |
本課題は光触媒とタンパク質への親和性リガンドを連結させた低分子化合物と可視光刺激という二つの細胞外刺激によって、細胞内の任意のタンパク質を選択的に分解に導く新規方法論の確立を目的としている。26年度は、タンパク質親和性リガンドを連結させたRu(bpy)3光触媒を用いることで、タンパク質混在系の中でも任意の標的タンパク質上にチロシン残基のラジカル種を発生させる技術の確立を目的として研究を遂行した。まず、本手法の“標的タンパク質選択的にその表面に高活性なラジカル種を発生させることができる”といった新規な点に着目し、光刺激応答によって発生するペプチド鎖アミノ残基上のラジカル種の挙動を精査した。その結果、Ru(bpy)3錯体はチロシン残基以外のアミノ酸残基(Cys, Trp, Met, His)も一電子酸化的にラジカル化しており、中でもヒスチジン残基上のラジカル種生成がペプチド鎖の分解に関与すること、N,N-dimethylamino-N’-acyl phenylenediamine構造(Tyrosyl Radical Trapper: TRT)の添加によって光分解反応を抑制しつつチロシン残基のラベル化反応に誘導できることを見出した。このことから、Ru(bpy)3光触媒に標的タンパク質に特異的に作用するリガンド分子を導入することで、細胞内で標的タンパク質を選択的に不活性化させる可能性が示唆された。27年度は、炭酸脱水素酵素等を標的タンパク質に選定し、実際に細胞内で不活性化が可能かどうか検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Ru(bpy)3錯体はチロシン残基以外のアミノ酸残基(Cys, Trp, Met, His)も一電子酸化的にラジカル化しており、中でもヒスチジン残基上のラジカル種生成がペプチド鎖の分解に関与することを明らかにした。このことは、他の光感受性化合物によるタンパク質分解反応とは明らかに異なる機構で進行していることをしめすものであり、本手法はタンパク質不活性化(ノックダウン)の新しい手法を提案することに繋がり、学術的にも非常に意義がある。
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