研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
26102724
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 博章 京都大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (90204487)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 薬学 / X線 / 分子構造 / 薬理学 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
1.CmABCB1-aCAP複合体のX線結晶解析 野生型ABCトランスポーターCmABCB1と阻害剤aCAP複合体のX線結晶構造解析を実施した。これまでは、膜貫通ヘリックスTM4に変異を導入して立体構造を安定化したVVV変異型を用いて立体構造を解析していた。しかし、VVV変異体は、ATPase活性および薬剤耐性試験による基質排出活性ともども著しく低下した変異体であることから、阻害剤の結合様式がVVV変異型に特異的である可能性が否定できない。そこで、野生型CmABCB1を用いた複合体の解析を実施した。その結果、阻害剤aCAPの結合構造はVVV変異型の場合とほとんど同じであることが確かめられた。両者の構造で変化があったのは、VVV変異が導入されたTM4領域に限られていた。 2.結晶構造に基づいたaCAP阻害メカニズムの解明 ABCトランスポーターCmABCB1に対するaCAPの阻害様式を酵素反応速度論的手法により解析した。その結果、aCAPはATPに対して非拮抗阻害を示し、輸送基質ローダミンに対してほとんど拮抗型に近い混合型阻害を示した。X線結晶解析の結果aCAPは、膜貫通ヘリックスTM1とTM6の解離を抑制する形式でCmABCB1分子の外側から結合することを示している。したがって、輸送基質ローダミンとaCAPが拮抗型に近い阻害を示すことは、aCAPがCmABCB1に結合することによりローダミンがCmABCB1の基質結合部位に結合することを抑制することが示唆され、ローダミンの結合には、CmABCB1の構造変化が必要であることが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、新たに取得したユニークなメカニズムの阻害剤とABC多剤排出トランスポーターとの複合体のX 線結晶構造解析を行い、得られた立体構造を基盤として阻害剤の結合様式と阻害メカニズムとの関係を解明することを目指している。 今年度の研究において、aCAPの阻害様式が輸送基質に対して拮抗的な挙動を示すことが明らかとなった。これは、aCAPの阻害様式を明らかにしたという意義だけでなく、輸送基質の結合には、ABCトランスポーターの構造変化が必要であり、その構造変化を阻害すると基質結合が抑制されるという、予想外の新しい事実の解明がなされた。 幸いにも最初に得られた複合体の結晶構造は2.4オングストローム分解能とABCトランスポーターとしては最高の精度で構造決定を行うことができた。ただし、その解析に用いた分子は、変異型CmABCB1であり、野生型でもaCAPが同じ構造と結合様式であることには疑問が残っていた。しかし、今年度の研究において野生型CmABCB1においても変異型を用いた場合と同じ結合構造のaCAPが捉えられ、その疑念は払拭された。
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今後の研究の推進方策 |
研究が順調に進んでいることから、当初の目標をほぼ達成することができた。そこで、aCAPの新たな阻害様式をもっと詳細に調べるための計画を追加することとした。すなわち、阻害剤aCAPと類似の環状ペプチドではあるがアミノ酸配列が異なる阻害剤を合成して、aCAPと同様にCmABCB1との複合体の結晶構造解析を実施して、aCAPとの共通点と相違点を明らかにすることを計画した。また、X線結晶解析だけでなく、NMR分光学を用いた動的構造解析を実施するための準備を行う。これによって、CmABCB1の構造変化と輸送基質との相互作用、そして、それを阻害するaCAPのメカニズムが分子の動きを含めて解明されるものと期待される。
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