公募研究
生体内の分子は相互作用をすることでネットワークを形成し、それが生命システムをつくる。ネットワークの中心に存在するハブタンパク質は、多くの分子と相互作用し、多様な機能を発揮する。天然物リガンドには何故か、こういったハブタンパク質を標的とするものが多いようである。例えば細胞骨格を形成する主要タンパク質であるアクチンに作用する化合物は多く知られている。ハブタンパク質を阻害すれば周辺ネットワークに大きな摂動が生じるが、一対一対応を想定した既存の鍵と鍵穴モデルの適用ではハブタンパク質のマルチな機能を区別して解析することは不可能である。同じハブタンパク質を標的にしていても構造多様性を有し、少しずつ異なる表現型を示す天然物リガンドを使い分けることでハブタンパク質の機能解析を効果的に推進することを目標に、本研究ではリガンドの探索とその作用機序解析を推進している。初年度には、セリンの資化を優先的に阻害するアクチン重合阻害剤に加えて、FKBPの阻害化合物がセリンの資化を選択的に阻害することを見出し、その分子メカニズムの解析を開始した。また、プロリンの資化を抑える化合物の精製・構造解析と、新しい天然物リガンドのスクリーニングも微生物培養液抽出物コレクションを用いて進めている。
2: おおむね順調に進展している
分裂酵母をモデル生物として用い、特定のアミノ酸資化を抑制する化合物の取得に成功しており、初年度の成果としてはまずまずと思われる。また、そのなかには天然物の断片化合物も含まれ、それは意外なことにFKBPの阻害剤であった。申請者らは既にrapamycinがセリンの資化を抑制することを明らかにしており、TORがセリンの資化と関連有るものと考えていた。しかし、新たに同定したFKBPの阻害剤はTORの機能抑制はしないことが知られており、rapamycinもFKBPに結合することから、FKBPがセリンの資化を制御している可能性が示唆された。FKBPには多数の基質タンパク質があると予想されているが、その機能には不明な点が多く、同定した天然物リガンドやその断片化合物をツールとして機能解明が進むことが期待できる。初年度に同定した化合物群は、標的分子が未知のものも含んでおり、それらを同定する必要があるが、次年度の生化学的な試験やゲノムワイドなスクリーンにより、明らかにしたい。
アミノ酸代謝を制御するネットワークを同定し、特にその中心的な役割を担うハブタンパク質の機能を解析するために、本研究では多様な天然物リガンドを用いた化学遺伝学と、標的タンパク質の変異体を用いた遺伝学を推進する。基本的な方針は下記のように初年度とは変わらないが、得られた天然物リガンドの標的分子については、あらたにFKBPを遺伝学的な検証の対象にする必要がある。①天然物リガンドの探索:単一のアミノ酸を唯一の窒素源として培養した細胞に対する微生物培養液抽出物の生育阻害試験を行う。複数のアミノ酸についてスクリーニングし、特定のアミノ酸の資化を阻害する天然物リガンドを単離・構造決定する。構造が決定された化合物について、大量培養による化合物の供給を検討し、類縁化合物の取得と化学変換による構造活性相関研究を展開する。②天然物リガンドの作用機序解析・代謝物解析:分裂酵母細胞内の遊離アミノ酸を中心とした30余りの代謝物を、確立済みのLC-MSによる定量解析法により検出し、得られた天然物リガンドの代謝への影響を検討する。・標的タンパク質の変異体の作製と解析:セリンの資化との関連が示唆されているアクチンとFKBPについて、遺伝子破壊や変異体作製を行い、天然物リガンドとその標的分子、そしてアミノ酸資化との関係性を解析する。標的分子が未同定の天然物リガンドについては、出芽酵母変異株コレクションを用いて標的経路を絞り込み、一方でプローブ分子を作製し、物理的相互作用を指標に標的分子を探索する。
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