植物病原菌の2次代謝物であるジテルペン配糖体フシコクシンとコチレニンは、化学構造が相似しているにも関わらず、フシコクシンは植物毒性を、一方コチレニンは白血病細胞に対する分化誘導活性と固形がんに対する増殖抑制活性を示すという異なる生理活性を示すことから、その作用機序の解明に興味が持たれている。本研究では、ISIR-042が14-3-3と特定のリン酸化たんぱく質と3者会合体を形成し、たんぱく質間相互作用を選択的に増強するという作業仮説のもと、細胞内作用たんぱく質の同定実験を実施し、ISIR-042の作用機序の解明を目的とした。 昨年度、HEK293からFLAG-14-3-3zetaの安定発現細胞株を樹立し、60g程度の細胞を取得した。本年度はこの細胞から調製したライセートを用い、免疫沈降実験を行った。標的探索実験についてはまず実験条件の最適化を検討した。細胞ライセートを化合物含有緩衝液中ビーズで処理し、結合たんぱく質をFLAGペプチド溶液で溶出してたんぱく試料を得た。次にSDS-PAGEゲルを銀染色してバンドの検出を試みたが、大量のたんぱく質試料を担持すると分解能が顕著に低下した。次に、ISIR-042依存的にバンド強度が増大したバンドを複数切り出し、質量分析に供した。その結果、質量200kDa付近に、14-3-3結合パートナーとして報告されているたんぱく質Xが同定された。Xは、14-3-3結合サイトを複数持ち、その配列から、ISIR-042により14-3-3への結合が増強される可能性が示唆された。抗FLAG免疫沈降実験で得られたたんぱく質試料を用い、Xに対する抗体によるWestern blotを行ったところ、ISIR-042依存的なバンドの増強が確認された。このたんぱく質Xは、がん細胞の代謝調節関連信号伝達系の制御に関与していると考えられ、現在分子生物学的手法による検証作業を進めている。
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