我々は、毒化ホタテガイから単離された梯子状ポリエーテル化合物イェッソトキシン(YTX)をビーズに結合させることで、その標的タンパク質として液胞型ATPase(V-ATPase)のサブユニットaを同定した。そこでV-ATPase活性を調べたところ、YTXそのものではなく、脱硫酸化YTX (dsYTX)に高い阻害活性が認められた。またV-ATPaseは液胞内部を酸性にする働きがあることから、細胞中の液胞を観察したところ、dsYTXの作用により液胞内部が短時間で中性化した。一方YTXでは長時間作用させることで同様の中性化が観察された。これは、長時間作用させることで、液胞内部の酸性度によってYTXがdsYTXに加水分解され活性が出たものと考えられる。一方、YTXの生産者である渦鞭毛藻に対してもdsYTXは毒性を示すことが明らかとなった。このことから、YTXは毒性の低い毒素前駆体であるが、他の生物に作用する際には液胞内部の酸性によって活性型のdsYTXが生成し、V-ATPaseを阻害することで毒性を発揮することが示唆された。梯子状ポリエーテル化合物の標的タンパク質が明らかになったのは、電位依存性イオンチャネル以外ではほとんど報告例がなく、また、サブユニットaに作用する阻害剤もほとんど例がないことから、本研究は両方の意味で重要な成果と言える。
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