研究実績の概要 |
今年度は、標的観測NMR解析を実施するために、研究対象となるAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)リガンド結合ドメイン(LBD)の安定同位体(2H,13C,15N)標識試料の調製を行った後、HNCACB, HN(CO)CACBなどの数種類の多核多次元NMR測定による連鎖帰属法により、野生型のAMPAR-LBDの主鎖アミド基由来のNMRシグナル帰属を進めた。帰属作業に平行して、すでにシグナル帰属されているトリプトファン(Trp)残基側鎖シグナルを利用した解析を先行して行った。特に、リガンド結合部位から離れたAMPAR-LBDのローブ間界面付近に存在する2つのTrp残基のNMRシグナルに着目し、各種リガンド(アゴニスト、部分アゴニスト、アンタゴニスト)結合時の比較解析を行ったところ、リガンド薬理活性とある程度相関する化学シフト変化がみられることが明らかとなってきた。 また、リガンド結合に依存したAMPAR-LBDの誘起構造変化とリガンド薬理活性の相関の詳細を明らかにする目的で、AMPAR-LBD変異体を活用した解析も進めている。AMPARのT686A変異体は、キスカル酸に対する薬理活性は野生型と同等であるが、グルタミン酸の薬理活性が低下していることが知られている一方、野生型と変異体の立体構造にはほとんど相違がないことが、X線結晶構造解析により明らかにされている(Zhang et al. 2008)。野生型と変異体では、LBD領域の特定部位における動的構造の相違が存在するとの推定から、キスカル酸およびグルタミン酸結合状態での野生型・変異体AMPAR-LBDを調製し、NMRスペクトルの比較解析を開始した。今後、解析を進めていくことで、リガンド薬理活性を決定づける鍵となるNMRパラメーター変化を特定していく
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