公募研究
平成26年度は、未熟終止コドン読み飛ばし活性(リードスルー活性)を有する化学プローブの獲得をめざし、これまで獲得した高活性なネガマイシン誘導体を基盤とした構造活性相関研究(SAR)を展開した。即ち、本SAR研究によりリードスルー作用発現機構の解明に向け有効な化学プローブ創製の手がかりを模索した。実際には、天然物であるロイシル-3-epi-デオキシネガマイシンのロイシン部分に注目し、独自開発した高活性誘導体TCP-112の3位アミノ基に天然および非天然アミノ酸など種々のアシルユニットを重点的に導入した誘導体を合成した。これらの誘導体の活性を評価することで、高活性な誘導体の獲得をめざした。先ず、結合部位との水素結合の可能性を模索するため酸性および塩基性アミノ酸を導入したが、高活性誘導体は得られなかった。そこで次に、疎水性相互作用の向上を期待して脂肪族および芳香族アミノ酸を導入したところ、培養細胞での評価において、側鎖に長鎖アルキル基を有するアミノ酸を導入した誘導体がネガマイシンより約10倍強いリードスルー活性を示すことを見いだした。このことは、リボゾーム上には誘導体の3位アミノ基周辺を認識できる比較的大きな空間があり、側鎖に大きな構造を有する非天然型アミノ酸を3位アミノ部分に導入しても、活性を維持・向上できる可能性を示唆している。したがって、この結果に基づき当該部分に光親和性標識構造(ベンゾフェノン)を有するアミノ酸誘導体を導入した新規TCP-112誘導体を合成した。次年度において、培養細胞系または無細胞タンパク質合成系にて当該ケミカルプローブのリードスルー活性を評価し、プローブとしての有効性を確認したい。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、2つの方向性をもって研究を遂行した。ひとつは、リードスルー作用機構解明研究に利用可能な化学プローブ創製を目的とした構造活性相関研究(SAR)である。この研究では、ネガマイシン誘導体TCP-112の3位アミノ基に、側鎖に長鎖アルキル基を有するアミノ酸を導入した誘導体が、ネガマイシンより約10倍強いリードスルー活性を示すことを明らかとした。この結果から、TCP-112の3位アミノ基に非天然型アミノ酸を導入できることが解り、高活性を維持したケミカルプローブの創製の糸口を見出すことができた。したがって、本研究はおおむね順調に進んでいると言える。もうひとつは、TCP-112の化学プローブ化の検討である。上記知見に基づき当該3位アミノ基に光親和性標識基としてベンゾフェノ構造を有する非天然型アミノ酸を導入した誘導体を実際に合成した。本誘導体のリードスルー活性は現在評価できていないため、この点では若干の遅れが出ている。早急に培養細胞系または無細胞タンパク質合成系でリードスルー活性を評価し、化学プローブとしての有効性を確認することで、次年度に繋げていきたい。
平成27年度は、ネガマイシンケミカルプローブを用いた光親和性標識により、r-RNAもしくは関連蛋白質に対するネガマイシンの結合部位探索研究を行い、これを足がかりにリードスルー作用機構解明に挑戦する。方法としては、多剤耐性に関わる遺伝子を破壊した多剤超感受性出芽酵母や無細胞蛋白翻訳系を用い、リードスルー活性を定量化できる評価系を構築し、ネガマイシンケミカルプローブを用いた光親和性標識を実施する。クリックケミストリー等を活用し、標的分子(r-RNAまたは蛋白質)の同定、その結合部位の特定に挑戦する。光標識における分子標的が、リボソームを構成する蛋白質である場合は、標識体をアフィニティー精製等で単離し、質量分析により分子標的の同定を試みる。酵母の系で結合蛋白質が単離・同定できた場合は、当該結合蛋白質が、リードスルー活性の標的分子であるか否かを更に検証する。即ち遺伝子破壊や過剰発現、変異導入などの遺伝学的手法に基づいて検証することで、ネガマイシン誘導体結合蛋白質の特徴を明らかにする。一方、分子標的がr-RNAの場合は、RNA footprint法などでプローブで修飾された核酸同定を試みる。r-RNAのE-siteのモデルとなるオリゴRNAを合成し、ネガマイシン誘導体が2本鎖オリゴRNAに与える安定化効果を融解温度測定により評価する。また、単離リボソームとネガマイシン誘導体によるChemical footprintingも検討し、ネガマイシン誘導体の結合部位を同定する。生物活性を有する化学プローブを利用したケミカルバイオロジー展開により、ネガマイシンの分子標的、その結合部位およびリードスルー作用機構の解明を試みたい。また27年度も、作用機序解明に有効な化学プローブの創製も継続的に実施する予定である。
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ChemMedChem
巻: 9 ページ: 2233-2237
10.1002/cmdc.201402208