研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
26102743
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 克典 独立行政法人理化学研究所, 田中生体機能合成化学研究室, 准主任研究員 (00403098)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 抗体 / 有機化学 / アクロレイン / ポリアミン |
研究実績の概要 |
平成26年度では、アミノ基を多数持つポリアミンに加えて、さらに水酸基を持つアミノアルコール天然物であるスフィンゴシンやノルアドレナリンも形式的な[4+4]環化反応を起こすことを見出した。このように、報告者の見出した反応は天然でも普遍的に進行している。さらに、これら[4+4]環化反応の生成物である8員環誘導体は、分子中のアセタールの安定化度合いよって、放置しておくだけで次第に、現在、酸化ストレス条件下でのアクロレインマーカーとして利用されている3-ホルミル-3,4-デヒドロピペリジン(FDP)へと変換されることを見出した。最もアセタールの安定化効果が小さいと考えられる8員環化合物の1つ、2,6,9-トリアザビシクロ[3.3.1]ノナンの場合では、2日間でほぼ定量的に対応するFDPへと変換される。これまでに報告者が得た成果を総合的に考えると、酸化ストレス条件下では、生体内アミンがアクロレインと反応し、報告者が見出した形式的な[4+4]環化反応が優先的に進行し、まずは8員環化合物を与えている。しかし、8員環化合物は比較的不安定であり、次第により熱学的に安定なFDP化合物へと変換され、そしてこれが安定に取り扱いやすいバイオマーカーとして認識されていると考えられる。逆の観点から、生体内アミンとアクロレインとの反応性一番先に生成する化合物は8員環化合物である。当初、8員環化合物の抗体を作成して生体内での生成を確認しようと考えていたが、8員環化合物の不安定性のため、モノクロナール抗体を作成することが困難であった。しかし、その反応性を詳細に検討することにより、思いがけずこの8員環化合物の生成を間接的に証明することができた。さらに、現在臨床などで使用されているFDPの新しい生成機構を提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従って、生体内で一般的に様々なアミンがアクロレインとの反応によって8員環化合物を与えることを明らかにした。また、この8員環化合物の抗体こそ作成することは困難であったものの、その化学的反応性の知見から、これを間接的に証明できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度では、8員環のエピジェネティクスやクロマチン凝集に関する効果を検討する。予備結果から、1,5-ジアザシクロオクタンは、ヒストンの特定リジン残基のメチル化レベルを顕著に向上させることを見出している。様々なポリアミン誘導体や1,3-ジアミン誘導体を合成し、アクロレインとの環化反応に付すことにより、8員環ライブラリーを合成する。この中から、エピジェネティクスを選択的に制御する化合物やクロマチンの凝集効果を示す化合物を探索する。さらにこれらの結果をもとに、8員環化合物の各種標識体を調製し、細胞内での挙動観察やターゲット分子の探索を行い、エピジェネティクス制御機構を検討する。
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