研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
26103502
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
内田 就也 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10344649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生物物理 |
研究実績の概要 |
流体相互作用が引き起こす繊毛、鞭毛、アクティブコロイドの集団運動について、以下の(1)~(3)のテーマを中心に研究を行った。 (1)繊毛メタクロナル波の発生条件の解析:繊毛のモデルとして駆動力が位相の関数として周期的に変調する剛体回転子モデルを用いて、回転子の2次元正方格子でのメタクロナル波の発生条件を解析した。その結果、駆動力のピーク位置が円軌道の頂上より45°手前にある場合に最もメタクロナル波が発生しやすいことが分かった。また、軌道面が平面基盤に対して45°傾いている場合に最も発生しやすいことが分かった。これはゾウリムシやマウス気管の繊毛の軌道が傾いている事実と整合する。(2)光駆動コロイドの同期現象の解析:光ツイーザーによって駆動され円軌道上を回転するコロイド粒子の流体相互作用による同期現象の解析をPietro Cicuta 氏(ケンブリッジ大学)らの実験グループと協力して進めた。駆動力を位相のサイン関数として変調させた実験の結果、回転子の柔軟性(円軌道からのずれ)が大きい場合には同位相同期が起きやすいこと、駆動力の変調が大きい場合や回転子間の距離が小さい場合には逆位相同期が起きやすいことを見出した。また理論計算によりこれらの定性的傾向を確認した。(3)バクテリアカーペットの集団同期転移の機構解明:バクテリアカーペットにおける鞭毛の集団同期現象の解析を、Wei-Yen Woon氏(国立中央大学、台湾)らの実験グループと協力して進めた。 溶液中の Na+ 濃度が閾値を超えると流動速度が急激な増加を見せる現象についてその機構を検討した結果、これは鞭毛の歳差運動が集団的に同期する2次相転移的な挙動であると判明した。 その他、(4)マウス気管繊毛のビーティング運動(5)らせん状鞭毛による遊泳(6)バクテリア乱流中のコロイド粒子の運動について予備的な研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究テーマの内(1)繊毛メタクロナル波(2)光駆動コロイドについては当初の計画に沿って期待する研究成果がほぼ得られたものの、論文発表に至っていない。(1)に関しては計算結果は出そろっており、共同研究者の Ramin Golestanian 氏(オックスフォード大学)と連絡を取りつつ論文を執筆中である。(2)に関しては実験と理論で得られる同期挙動に定性的な一致が得られているが、さらに定量的な一致を得るべく実験条件の再検討を進めているところである。一方、テーマ(3)~(6)は本研究課題の目的に合致するが、当初の年度計画にはなく新規に開始した共同研究であり、その点では予想外の進展があった。(3)は2014年9月に共同研究を開始し、バクテリア鞭毛の集団同期現象について定量的測定と検討を行った結果、同期転移の機構を複数の候補の中から1つに絞りこむことができた。現在、バクテリアカーペット上の流動場について理論モデルとの比較を進めている段階である。(4)(5)は2014年10月に西坂崇之氏(学習院大学)らの実験グループと共同研究を開始した。(4)については繊毛の弾性変形、流体抵抗、分子モーターの駆動力を取り入れたモデルを構築しているところであり、流体抵抗が駆動力に対してマイナーな寄与であることが判明した。(5)については古細菌(アーキア)のらせん状鞭毛による遊泳について流体力学モデルを構築しており、遊泳速度について予備的な計算結果が得られている。(6)は2015年2月に Hartmut Loewen 氏(デュッセルドルフ大学)と共同研究を開始した。当初の年度計画ではヤヌス粒子の集団運動を Smoothed Profile Method (SPM)により数値的に解析する予定であったが、対象を変更し、アクティブ乱流中のコロイド粒子の挙動を SPM により解析することとした。
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今後の研究の推進方策 |
上記研究テーマ(1)~(6)の各々について、2015年度中の論文発表を目標として以下のように研究を進める。(1)2次元メタクロナル波の発生条件に関する論文を執筆、投稿する。次にメタクロナル波による流動速度や流動場のエネルギー散逸率を解析し、メタクロナル波の生物学的合理性を検討する。(2)光駆動コロイドの同期現象について理論と実験の定量的な一致を得るべく理論モデルや実験条件の改良を行う。また理論と実験をつなぐ中間手段としてノイズや駆動力のフィードバック遅れを取り入れた直接数値シミュレーションを実行する。(3)バクテリアカーペットが作る流動場パターンを、3次元回転子モデルの数値シミュレーションにより解析し、トレーサー粒子の運動やバクテリアカーペットとの相互作用についての実験結果と比較、検討する。(4)繊毛を1次元フィラメントとみなすモデルを用いて、弾性変形を解析するとともに、駆動力のモデルを改良して繊毛の運動パターンの定量的な記述を行い、実験結果と比較する。また繊毛内部における分子モーター(ダイニン)と微小管の3次元的配置を考慮したより微視的なモデルを構築し、1次元フィラメントモデルとの接続を行う。(5)アーキアの流体力学モデルにおいて鞭毛が作る流れを解析するためのスレンダーボディー近似を改良する。アーキアの遊泳速度および首振り運動の解析を進めて、実験結果と定量的な比較を行う。(6)アクティブ乱流中のコロイド粒子について、Smoothed Profile Method を用いた2次元数値シミュレーションを実行して、流動場が媒介する粒子間の有効相互作用や粒子の輸送現象を解明するとともに、相分離などの新規な集団運動を探索する。
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