研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
26103503
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
義永 那津人 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (90548835)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アクティブマター / 細胞運動 / 細胞組織 / 生物物理 / ソフトマター / 非平衡 |
研究実績の概要 |
本年度は、自発運動する粒子・液滴間の相互作用に注目して研究を行った。特に、粒子表面の不均一性から、球状であっても方向を持っているJanus粒子に注目して研究を行った。このモデルは内部自由度を持っているが、それらの変化は回転によって表現することができる。そのため変形がある場合に比べて比較的シンプルな理論を構築ができると考えこのモデルに注目している。我々は、二粒子間の相互作用を、遠方と近傍に分け、それぞれ計算し適当に内挿することによって一般的な配置における並進速度と回転速度を近似的に導出している。これは、Janus粒子表面の不均一性に対応した球面調和関数の係数を用いて表現される。我々は、各モードの係数の時間発展を球面調和関数のnモードの係数に対応する2n+1次元のベクトルに対する回転行列を用いて、これらで閉じた時間発展の方程式を導出した。運動方程式は、粒子間の相対位置、相対速度に対する非線形方程式になっているが、現在、運動の力学フローを解析して運動の安定性について調べている。本研究内容は論文として投稿準備中である。 また、二次元での閉じ込められた自発運動粒子の運動について理論的に調べた。系の回転対称性を仮定することによって、運動速度と位置に対して3次まで展開した一般的なモデルを構築し、これを解析することによって振動運動と回転運動が存在し、それらの間の分岐に対するパラメーターの条件を理論的に求めた。数値計算によって、広いパラメーター範囲で理論の正当性と理論的に解析しきれなかった部分の詳細について調べ、振動と運動との間に準周期的な運動が存在することも明らかになった。これらの結果は、論文としてまとめて現在Physical Review E誌に再投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は変形する液滴の間の相互作用に対する解析を進め、また、数値計算も平行して進めてきたが、より基礎的な理解には、Janus粒子のような、内部自由度の中でも回転のみを有した系に取り組むことが不可欠であることが明確になってきた。そこで、まず変形の振幅の変化を落とすことによって、より解析しやすくなったモデルで自発運動の詳細な解析を進めることができた。これは、2014年6月にイギリスのブリストル大学を訪問した際にTanniemola Liverpool教授と議論して生み出された結果である。Janus粒子の相互作用の解析が軌道に乗り、年度の後半では、変形の振幅まで取り入れた計算を見直し、新たな解析手法を導入して研究を進めている。また、数値計算に関しても、相互作用を特徴付けるより見通しのよい方法、例えば、二粒子の運動を力学系としてとらえその(変形を含めた意味での)位相空間上での流れを解析することをなどを徐々に進めている。これらは、まず、Janus粒子のような少ない変数のモデルを隅々まで詳細に解析することを経験した上で思い至った内容であり、当初のまま、複雑なモデルの解析をそのまま進めていても結果的に効率が悪かったのではないかと考えている。 また、国内外での発表の機会にも恵まれたため、最新の結果を紹介し議論することができた。海外の研究会3件、国内での国際会議3件、国内での研究会3件で講演を行った。また、イギリス滞在中には、主な訪問先であるブリストルだけではなく、シェフィールド大学のRhoda Hawkins講師のもとを訪れセミナーを行うなどして情報の交換を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は、まず自発運動する液滴の相互作用について、数値計算を精力的に行い結果をまとめていく予定である。年度前半の適当なタイミングで計算機を追加し、幅広いパラメーター領域で、整列効果の有無や液滴のサイズ依存性などについて調べていく。整列効果については、現在でもある程度データは集まってきている。サイズ依存性に関しては、これまで数値計算と理論解析により、一個の液滴の場合でも、サイズによって運動のモードが変化することが明らかになってきているため、相互作用、あるいは集団でより多様な運動の変化を引き起こすのではないかと考えている。細胞運動を模した、内部自由度を取り入れた自発運動の数理モデルの開発にも取り組み、適宜その集団運動について計算を行っていく。内部自由度の非線形性と運動との結合によって、直進運動、回転運動、往復運動、そしてランダム状の運動が、例えば細胞のサイズに依存して現れることが最近明らかになってきている。細胞間の相互作用の観点では、特に、細胞間での接着相互作用を理論の中に適切に取り入れる方法について議論を進めていきたい。 また、早稲田大学の藤枝俊宣博士が行っている細胞シート内での各細胞の形や配置に関する解析についても引き続き共同研究を進めていく。一年目に画像解析の手法の検討を行い、実験データの解析、特に、細胞の形の空間分布や隣接する細胞との相関についての理解が進みつつある。二年目は、細胞シートに外部から等方圧力を加えることによって、各細胞レベル、および細胞集団に対して与える影響について調べていくとともに、数理モデルとの対応についても主に数値計算を用いた、変形する液滴の集団運動の解析を通じて理解を深めていきたい。
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