研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
26103508
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
橋坂 昌幸 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80550649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子ホール効果 / 分数電荷準粒子 / 電流ゆらぎ測定 |
研究実績の概要 |
整数量子ホール(IQH)系に挟まれた局所的な分数量子ホール(FQH)系を作製し、FQH系をトンネル障壁とする量子ホール接合系を実現した。この接合系をトンネルする準粒子電荷を電流ゆらぎ相関測定によって観測し、IQH間のトンネル過程であるにもかかわらず、局所FQH系の素励起を反映して分数電荷準粒子が生成されることを実証した[hashisaka et al., Phys. Rev. Lett. 114, 056802(2015).]。 トンネル準粒子の電荷は接合に対する直流電流のトンネル確率に依存し、障壁がFQH状態から真空に近づくと、分数電荷e/3から素電荷eへと変化していくことが分かった。この現象は量子ホール端の1次元電子系(エッジ状態)の朝永-Luttinger液体的性質に起因する。このことは、トンネル電流、準粒子電荷の温度依存性から確認された。 これらの結果を踏まえ、エッジ状態の1次元性に起因して生じる豊富な物理現象を整理・解明することを目指した実験を行った。分数電荷準粒子生成の磁場、バイアス電圧依存性からエッジ状態における電子スピン分極状態について解明するなど、新たな成果があがりつつあり、論文執筆に向けて解析を行っている。 また、量子ホール接合系で生成された分数電荷準粒子のエッジ状態における伝導について調べる研究を開始し、電流ゆらぎ測定によってエッジ状態の非弾性散乱を検出する新手法を開発した。これについては現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的であった量子ホール接合系における分数電荷の生成メカニズムの解明について、朝永-Luttinger液体論に基づいて理解が進み、論文として出版するに至った[hashisaka et al., Phys. Rev. Lett. 114, 056802(2015).]。さらに現在、この成果を踏まえた実験によって、量子ホール系におけるエッジ状態の1次元性に起因する様々な現象が発見された。この結果についての解析を実行中であり、さらなる成果が期待される。 また、当初は企画されていなかった電流ゆらぎ相関測定によるトンネル準粒子の非弾性散乱検出実験の提案を行うことができた。この結果についても現在、論文執筆中である。 このように、当初の計画が順調に遂行されているだけでなく、もともと計画されていなかった新計画の提案にまで研究がつながったことから、予期した以上の研究の進展があったと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られた量子ホール接合系における分数電荷の生成実験について解析を進め、論文としてまとめる。さらに、本研究で確立した局所分数量子ホール系の形成技術を利用し、特に量子ホール系のスピンダイナミクス、および分数電荷準粒子の量子統計性検証、という二つの目標を定め、新研究の提案を目指したい。 また、現在論文執筆中の電流ゆらぎ相関測定によるトンネル準粒子の非弾性散乱検出実験についての論文をまとめる。その上で、整数量子ホールエッジ状態、分数量子ホールエッジ状態の双方に対して本手法を適用し、準粒子の非弾性散乱メカニズム解明を行っていく予定である。
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