研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
26103509
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
上妻 幹旺 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (10302837)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子気体顕微鏡 / イッテルビウム / レーザー冷却 / 光格子 / ボース凝縮 |
研究実績の概要 |
量子縮退した原子気体を光定在波によって構成された周期ポテンシャル(光格子)中に捕捉した系は、Hubbard模型を代表とする各種物理モデルを忠実に反映する理想的なシミュレーターとして機能する。本研究の目的は、エキゾチックな性質をもつランタノイド系の原子であるイッテルビウム(Yb)に対して量子気体顕微鏡を構築し、新奇な非平衡現象の観測を行うとともに、その理解を深めることにある。本研究がスタートした平成26年4月の時点では、2次元光格子中にトラップされたYb原子集団に共鳴光を照射し、得られた蛍光画像を2次元フーリエ変換することで原子が周期的にトラップされている様子を辛うじて判断できるという状況であった。が、本年度の研究を通して、各サイトが明確に弁別された顕微画像を得ることが可能となった。各サイトが発する蛍光強度を横軸に、サイト数を縦軸にヒストグラムを構成すると、ダークカウントに相当するピークと原子1個からの蛍光に相当するピークの二つのピークが明確にあらわれる。これは、各サイトの原子数を高い精度をもって判定する第一歩となる成果である。これまで量子気体顕微鏡はフェルミオン同位体をもたないルビジウム(Rb)に対する報告しかなかったため、フェルミオン同位体を有する他の原子種に対して量子気体顕微鏡を実現することが世界的に急務とされていた。今年度の成果はこの世界的要望にこたえたものといっても過言ではないだろう。また達成された空間分解能は377nmであり、従来の量子気体顕微鏡のそれに比べて圧倒的に高い結果となっていることも注目に値する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究を申請した当初は、イッテルビウム原子を対象として研究を進めることを計画していた。量子気体顕微鏡の実現に相当数近づいたこともあり、我々は平成26年度に、全く異なる原子種に対するレーザー冷却研究にも着手することにした。これは、イッテルビウムではアプローチが出来ない、新しいタイプの相互作用に由来した非平衡現象についても研究の対象とするためである。具体的には、これまで誰もレーザー冷却を実現したことのない、ユウロピウム(Eu)という原子に着目をした。この原子は、7μBという最大級の磁気モーメントをもち、長距離・異方的相互作用を誘起できるからである。今年度、Euの真空系を立ち上げ、ゼーマン減速に必要な光源の作成、分光を行うとともに、μKオーダーの磁気光学トラップを構築する上で必要な異重項間遷移に共鳴する光源のたちあげも行い、その分光にも成功した。これをもって当初の計画以上の進展があると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
量子気体顕微鏡が実現したといえるためには、1.各サイトの原子数(もしくは偶奇)を高い精度で判定できる、2.観測中の原子のホッピングを十二分に抑圧できる、必要がある。各サイトからの蛍光強度に関するヒストグラムが二つの分裂ピークを示したことを通して、1の実現には近づいたが、2のホッピングについては、データがない状況である。我々は、光格子中で超流動-Mott絶縁転移を誘起し、さらにYb特有の超狭線幅光学遷移を利用することで、ホッピングの評価が可能と考えている。一方Euの実験については、磁気光学トラップの実現、非共鳴レーザーによる光トラップの実現までを目指したいと考えている。
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