本研究は、人工脂質膜小胞内環境において脂肪酸を合成し、それにより誘起された膜の形態変化を観察することで、内部供給された脂質がどのように二重膜あるいは小胞形成に影響を及ぼすかというダイナミクスをモデル化して考察することである。またこれにより、自己複製脳を持ったオートポイエティックな人工細胞(Protocell)の創造を目指す。 脂肪酸の生合成に関わる大腸菌の酵素9種類(FabA、FabB、FabD、FabF、FabG、FabH、FabI、FabZ、TesA)を個々に大量発現株から単離精製した。精製には各タンパク質にHisTagを付加し、NiNTAとイオン交換カラムを用いて液体クロマトグラフィーにより精製した。また、合成される脂肪酸の担体となるACP(Acyl Carrier Protein)の精製については、枯草菌由来のsfp(phosphopantetheinyl transferase)遺伝子と共発現させることで、Apo型ACPからHolo型ACPに変化させた状態で精製を行った。ACPとFabZに関しては細胞破砕後から極度な凝集化を示したため、界面活性剤tritonX-100を使用して精製を行った。精製産物の純度は、SDS-PAGE上で99%以上であることを確認した。これにより、脂肪酸合成に関わる全酵素の精製に成功した。 さらに、脂肪酸(Oleic acid)を用いたて巨大脂質膜小胞の調製方法について、ハーバード大学メディカルスクールのJW Szostak研究室の研究者と議論を交わし、調製プロトコルを共有した。 本研究期間内に、Nature Protocols (2015)、Angewandte Chemie(2014)を含む投稿論文4報と総説2報がアクセプトされ、国際学会発表10回(うち招待公演2回)を行った。
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