研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
26103516
|
研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
濱田 勉 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (40432140)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 生物物理 / メゾスコピック系 / 脂質 / 物性実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、膜とゲスト分子から成る「複合化ベシクル」を設計し、非平衡環境下で機能する細胞モデル系の作動原理を理解することである。これまでに、次の成果を得ている。 1 ベシクル内への分子システム導入とミクロ空間特性:近年、生体細胞では液-液相分離を利用して物質の局在化や化学反応を促進していることが報告されている。そこで、温度上昇により相分離し凝集体を形成するPEG化合物(MeO-PEG)をベシクルに封入し、細胞モデル実験を行った。MeO-PEGは、疎水分子が水溶性のPEGに付加した構造をしており、疎水性相互作用を利用し集合する生体分子をモデル化している。形成された相分離ドメインはある一定のサイズで安定化し、枯渇相互作用によって膜界面へと移動した。さらに、2分子膜で囲まれた細胞サイズ空間では、ドメインのブラウン運動がバルクと比較して顕著に上昇する事を見出した。これは、膜で覆われたミクロ空間が、ある種の非平衡性を顕在化させていることを意味する興味深い成果である。また、DNAを封入したベシクルの複合化ダイナミクスの解析を進めた。小胞の空間サイズに依存してDNAが膜に特異的に吸着しunfoldingする「ミクロ空間特性」の実験結果に対し、その物理メカニズムを自由エネルギー計算により説明した。 2 運動性ゲスト分子による非平衡ベシクル運動:原始的な細胞運動モデルとして、エネルギーを消費し運動する分子システムとベシクル系との複合化実験を進めた。相分離ベシクルにコロイド粒子を結合させ、電場印加による非平衡状態のダイナミクスを観察した。粒子はdisorder相に選択的に吸着し、粒子局在とカップルした相分離ドメインの輸送現象を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基礎となる、複合ソフトマター系の非平衡ダイナミクスの実験デザインが大きく進展した。具体的には、細胞サイズの膜小胞内部へのPEG高分子やDNA分子の導入に成功しており、細胞サイズ空間で創発する分子システムの特異性の発見に至っている。また、コロイドと膜の複合系の非平衡ダイナミクスに関する実験構築も進んでおり、研究計画は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
1年目の成果を推し進め、エネルギー散逸する環境下でのベシクルの非平衡運動の創出および機能発現メカニズムの解明を進める。膜と複合化させるゲスト分子として、コロイド粒子に加えて、生体エネルギー(ATP分子)を利用する分子モーター・細胞骨格システムの導入する。これにより、細胞サイズ空間で原始的な細胞動態機能を創発させる。さらに、膜の相分離構造や、DNAの構造転移ダイナミクスの知見を結集させ、膜系をベースとした複合ソフトマターとして人工細胞システムをデザインし、その非平衡ダイナミクス原理を解き明かす。
|