研究実績の概要 |
水中を泳動する微生物は、紐状の鞭毛や表面に生えた繊毛によって水中を自己推進するが、これは船や飛行機などの人工物はもちろん、魚類や昆虫などとも全く異なるメカニズムに基づいている。近年、泳動する微生物に対する力学的・物理学的アプローチの研究が国際的に大きな注目を集めているが、ようやく微生物の単体運動に関する理解に手が届き始めたところに過ぎない。非平衡ダイナミクスの実例としてより重要で、現象の変化にも富んだそれらの集団運動については、理解が全く進んでいないのが現状である。これはこの分野の理論的手法が未熟であることに主な原因があり、ソフトマターで成功した新しい手法を導入することで大きなブレークスルーが期待できる。 我々はこれまでに、球状、および任意形状粒子の濃厚な分散系の直接数値計算を実現するSmoothed Profile(PS)法というシミュレーション法を開発し,平成27年度には、荷電コロイド粒子の動的電気泳動現象の直接数値計算と、泳動するモデル微生物の集団運動の直接数値計算を行った。電気泳動に関しては,その重要な因子である電気二重層の分極を定量的に扱うため、荷電コロイド粒子の分極率を定量的に計算した。モデル微生物については,平板間に制限された空間での分散系のシミュレーションを行った.puller型の場合に液体中に自走粒子の数密度に関する波の進行が観察された.さらに,この進行波の定量的な理解を試みて動的構造因子S(k,ω)を計算すると,通常のコロイド分散系には見られない音波的な密度の揺らぎモードが観察されるなど,自走粒子に特徴的な振る舞いを見出した.興味深いことに,この進行波がpusher型では見られないこともわかった.
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