研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
26103524
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
岩楯 好昭 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40298170)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ケラトサイト / 細胞遊走 / ストレスファイバ |
研究実績の概要 |
アメーバ運動(遊走)は神経組織の形成から好中球の免疫応答にまで見られる普遍的な細胞機能である。遊走細胞は溶液に浮遊中は運動のための前後極性を作れない。しかし,基質に接着し,基質と力学的なやりとりが可能な状態になれば,誘引物質等が無くても,前後極性を自律的に創り出し運動する。さらに魚類表皮細胞ケラトサイトは浮遊状態から基質に接着すると,やがて必ず三日月形になる。繊維芽細胞や細胞性粘菌は基質上でも通常不定形だが,たまたま三日月形になるとしばらくそのかたちを保って運動する。本研究の目的はこの三日月形の形態を遊走細胞が創り出すメカニズムを解明することである。 ケラトサイトの三日月型の形態は詳細に観察すると魚種によって異なることがわかった。また、魚種によってケラトサイトが基質に発揮する牽引力の大きさが異なることも明らかになった。すなわち先導端を扇型で近似すると、牽引力の大きい魚種のケラトサイトは半径が大きく中心角が小さい。一方、牽引力の小さなケラトサイトは半径が小さく中心角が大きかった。ケラトサイトの牽引力は細胞体に存在するストレスファイバの収縮によって発揮されている。今回の結果は、ケラトサイトの三日月型の形態の形成に、ストレスファイバの収縮が大きな役割を果たしていることを示唆する全く予想されていなかった結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ケラトサイトの形態が魚種により異なることを明らかに出来た。 (2)さらに、ストレスファイバの発揮する牽引力が魚種によって異なることを明らかに出来た。 (3)ケラトサイトは薬剤処理で細胞を断片化させることができる。細胞断片も三日月形を形成し1時間以上遊走することが知られている。この断片の形状を詳細に調べてみると、元の細胞と相似形をしていることがわかった。この知見も全く新しい事実である。
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今後の研究の推進方策 |
魚種によってケラトサイトの形態が異なり、同時に、ストレスファイバの発揮する牽引力が異なること、また、同一魚種であれば、ケラトサイトとケラトサイト断片が同じ形態、すなわち相似形であることが明らかになった。これらの結果から、ストレスファイバが形態形成の重要な役割を果たしており、そのストレスファイバの特性は、同一魚種であれば、細胞が断片化しても維持されることが強く示唆される。 ストレスファイバがケラトサイトの形態形成に重要であるという知見はこれまでに無く、申請者にとっても大いに意外な事実であった。今後は、ストレスファイバの役割を明らかにするため、ストレスファイバを人為的に破壊したり、ストレスファイバの細胞体内での動態を促進、抑制するなどの制御を与えたときのケラトサイトの形態の変化を観察する。それに基づき、ケラトサイトの形態ができるメカニズムを理論的に考察したい。
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