研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
26103528
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
宗行 英朗 中央大学, 理工学部, 教授 (80219865)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体エネルギー変換 / 分子モーター / ゆらぎ / F1-ATPase |
研究実績の概要 |
F1-ATPaseはATPを加水分解して中心のγサブユニットを回転させるATP加水分解と回転のエネルギーの変換装置である.外部トルクをかけると逆反応であるATPの合成がおこり,回転トルクと釣り合う外部トルク(ストールトルク)の測定から,自由エネルギー変換効率は,ほぼ100%,ストール条件から離れたところでは,非平衡揺らぎによる熱散逸の測定から,ATP水解の自由エネルギー変化がほぼ100%回転自由度の運動により散逸することを我々は示してきた.本研究ではこの高効率自由エネルギー変換機構の手がかりを得るために,変換効率の下がった変異体との比較を行うことを目的とした. 現在,ストールトルクの低下した変異体(βG158A,T165S,Y341W)と野生型について,ATP水解から合成の条件まで含めた非平衡揺らぎによる回転自由度への散逸の計測を行い,この変異体は回転自由度への熱の散逸が低下していることが分かり論文を出版した.また,ATPの加水分解反応が野生型の1/100まで落ちた変異体βE190Dについて,ストールトルクが明らかに低下しており,外部トルク存在下で,不規則に受動的な回転をすることがわかり,構造の脆弱性が示唆された.そこで,γサブユニットのないα3β3複合体の安定性を野生型と比較したところ,この変異体はα3β3複合体の安定性が非常に低下しており,熱安定性の低下も示された.一つの点変異が,複合体全体の安定性に影響を与える原因については,MD計算による揺らぎの解析などが有効であると考えているが,本研究期間に進んだATPの力場の改良はそのために非常に重要である.本変異体についての非平衡揺らぎによる熱散逸と,回転ポテンシャルの計測は,今後引き続いておこなってゆく. 一方,野生型で外部トルクによる回転ポテンシャルの変化を示唆するデータが得られおり,更に研究を進めてその全貌を明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ノイズの多い実験結果を扱うために,その再現性の確認に思った以上に時間がかかっているのが現状である.現在実験を担当してくれている学生の熟練度は,おそらく過去の中で最高レベルにあると思っているが,昨年度はいかんせん,諸事情により時間が足りなかった.実験方法などに致命的な欠陥はないと考えているが,現在の学生の状況に合わせて適切な指導をするべきであったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
実験装置については,昨年度導入した顕微鏡のピント保持装置をさらに改良して,実用性を高め,データ収集効率を高くする.上記の「理由」にも述べたとおり,実験方法などはほぼ完成されて,大きな改良の余地はない.昨年度から在籍している学生,今年度に研究室の配属された学生に対する指導を適切に行って,自主的に研究に集中できる環境を作りたい.また,今年度から研究室に所属することになった助教の方にも独自の持ち味を活かしつつ,協力を求めていきたい.
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