公募研究
2015年度は,長時間安定したピントを維持して観察を行うための顕微鏡システムの開発を行った.今のところ10分前後の連続した観察を安定して行えており,十分な性能を持つものが出来たと考えている.一方,ATPase活性が落ちた変異体でどのように回転の性質が変わるかを検討すれば,化学反応と力学的な動きの共役に関する知見が得られることを期待してβE190D変異体の回転について,外部トルク依存性などを調べた.βE190D変異体は,加水分解反応に重要なグルタミン酸(E)をアスパラギン酸(D)に置換することにより触媒活性が1/100に低下したもので,F1-ATPaseの変異体の中では最もよく調べられたものの一つである.しかし,この変異体に外部トルクをかけると大きくばらついたストールトルクが得られ,それらはすべてATPの加水分解の自由エネルギー差から期待されるものより低くなっていた.以上の結果は,E190D変異が加水分解反応に影響するだけでなく,モーターの機械的な安定性を低下させ,回転にスリップが起こったことを示唆している.実際に熱処理を行って野生型と比較したところ,74℃で安定性が明らかに低下しており,また,γサブユニットのないα3β3複合体の安定性をゲル濾過で調べたところ,βE190D変異はα3β3複合体を安定に形成できないことが分かった.図らずも,ATPase活性の低下した変異体の回転への影響が,分子全体の機械的な強度の不安定化という形で現れたのであるが,F1-ATPaseがβサブユニットでのATP加水分解活性とγサブユニットの回転をカップルすることを考えると,加水分解活性に重要なアミノ酸残基が機械的な動きに関してもそれを支える形で重要な役割を果たすのは合理的なのかも知れない.このほかに光駆動型プロトンポンプであるプロテオロドプシンのポンプ活性の研究をおこない,pHによって輸送方向の逆転が起こることを示唆する結果を得た.
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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Biochemistry
巻: 55 ページ: 1036-1048
10.1021/acs.biochem.5b01196