研究領域 | 太陽系外惑星の新機軸:地球型惑星へ |
研究課題/領域番号 |
26103702
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
花輪 知幸 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (50172953)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 理論天文学 / 原始惑星系円盤 / 輻射輸送 |
研究実績の概要 |
原始惑星系円盤HD142527について、多波長の輻射輸送と流体力学平衡を考慮したモデルを作成し、共同研究者とともにALMA望遠鏡の撮像データと比較を行った。HD142527は三日月型に輝いており、ダストやガスが特定の方位角方向に集中していることが知られている。今回の共同研究により、波長0.8mm連続波ではもっとも明るい北東部では、もっとも暗い南西部に比べ70倍もダスト面密度が70倍も上昇していることが明らかになった。またガスに比べてダストは半径方向の広がりが狭く集中していることも明らかになった。これらの結果の一部は査読つき論文としてまとめPASJに投稿した。すでに軽微な改訂をしたうえで掲載するのが望ましいという審査結果が伝えられている。この論文では2方向に集中した内容になっていたが、全ての方位角について解析が終了したので、その成果については別の学術論文にまとめる予定である。 また2014年11月にプレスリリースされたHL Tauの原始惑星系円盤のALMA撮像データについても、モデル作成を始めた。近赤外線撮像により、HL Tau の原始惑星系円盤は膨らんでいることが知られていたが、電波連続はで明るい円盤は幾何学的に薄く同心円状の複数の溝をもつことが新たに明らかにされた。この画像は長基線観測の試験として行われたもので、解像度が高く、さらにバンド3. 6. 7の3波長で撮像されている。予備的な計算により、円盤に埋もれて強く減光をして見えている中心星の質量や光度、円盤の面密度分布を適切に選べば、近赤外線では膨らんで見えるがミリ波サブミリ波では平らに見えるという性質を再現できそうな見通しがたった。バンドにより溝とその周囲のコントラストが違うので、これらの特徴を再現できるモデルを作成することにより、これまでにない精度で温度や密度を推定できそうである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究で作成してきた多波長の輻射輸送と流体力学平衡を考慮したモデルは、HD142527やHL Tauなど国内外で多くの研究者の注目を集めている天体の解析に一定の貢献を果たすことができた。モデル作成を通して共同研究も順調に進んでいて、観測結果を理解するためのモデル作りという面では十分な成果をあげている。共同研究者は私が作成したモデルの温度密度および輻射強度分布から、ALMA望遠虚で観測した場合の予想輝度分布を導けるようコードを整備した。また複数のモデルを補間し、モデルパラメータが中間的な場合の予想強度を求める方式も確立した。今後も連携により観測を説明するモデル作りができる体制となった。 一方で数値計算コードの改良についての進展は十分と言えない。特定の半径の場所だけを扱う1次元局所近似を用いた場合については、満足な解を得るまでの反復計算の回数を10回程度にまで下げることに成功したが、これを2次元問題に拡張できていない。観測との比較に供している2次元コードでは静水圧平衡の条件を求める部分で改良を行ったが、熱平衡を求める部分が律速していて反復計算の回数を減らせていない。とくにダストの面密度が高く、円盤がサブミリ波でも光学的に厚い場合に計算が遅くなる。現在は高速なワークステーションを使うことにより、ようやく結果をだしている状況である。 ただし本格的な改善のためには、1次元コードと同様に反復法を完全に書き換える必要があるので集中した開発時間が必要である。限られた研究時間の中で観測との連携を進めたことが開発の遅れの主原因である。共同研究者との連携が進んだことを考えれば、大きな問題と考えなくて良いと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
HD142527については北西部の一部をのぞき、15/18 の方位角で波長0.8mmでの輝度分布を再現する面密度分布が求まった。さらにこのモデルは中間赤外線の輝度分布を定性的に説明できることも明らかになってきた。北西部は近赤外線や中間赤外線でも他の方位角には見られない特徴があり、他の方角では良い近似となっている軸対称モデルでは再現できない可能性がある。これらの問題も含め、得られた知見を学術論文にまとめる時期と考えられる。この論文では最適なモデルだけでなく、モデルに使われたパラメータの不定性についても言及する。 HL Tauは極めて軸対称性が良い天体であることが明らかになったので、大局的な性質を再現するモデルが作成できそうである。ここまでの分析により、ダストが最大半径 1mmにまで合体成長したモデルを使ったほうが、星間物質と同じく半径1μm以下の微粒子だけより、観測から推定されるものと近い温度が再現できることが分かっている。ALMAで観測されたより広い領域で、近赤外線の反射光分布や、円盤により強い減光を受けたジェットなど、この天体はモデル作成に有益な情報が多数与えられている。さらに円盤に向かって落下中のガスがその外側にあることも知られている。このような系の力学については研究業績もあるので、これまでの経験を生かしたモデル作りに取り組む。 モデル作成が順調で時間をかければ注目に値する成果が得られそうなので、計算コードの高速化は、反復法に用いるパラメータの調整など、時間をかけずに中程度の成果が得られるものに限る。
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