研究実績の概要 |
普遍的な星および惑星の形成過程を明らかにするためには、形成過程にある星の正確な温度、質量、年齢などの物理量を正確に決めることが重要である。前主系列星の観測はこれまで主に多波長の測光観測によって求められた光度や温度を基に議論されてきたが、測光観測から求められる前主系列星の光度には、星の距離、減光量、前主系列星に付随する原始惑星系円盤の熱的放射(ベーリング)が含まれるため、正確な議論を行うことが難しかった。 本研究では、高分散分光観測によって得られる前主系列星の大気吸収線の等価幅比を用いることで、測光観測で問題となっていた距離、減光量、ベーリングの不定性に依らずに前主系列星の表面重力を決定する方法を確立した。前主系列星は進化とともに収縮し密度が増加し、星表面での重力も徐々に増大するため、星の表面重力を求める事で年齢を導くことが可能である。 この手法を用いて、近傍の星形成領域であるおうし座分子雲に属する前主系列星10天体の年齢を決定した。その平均年齢はおおよそ200万年であり、前主系列星の年齢が大きくなるとともに原始惑星系円盤からの熱的放射が減少することが分かった。これにより、おうし座分子雲中の前主系列星の円盤散逸タイムスケールがおおよそ200万年であることが分かった(Takagi et al. 2014, PASJ, 66 88)。また、同じく近傍にあるへびつかい座分子雲の前主系列星に対し同様の観測を行った結果、へびつかい座分子雲ではおうし座分子雲の半分程度である100万年程度で円盤が散逸することが分かった。この結果は、星形成領域ごとに円盤の進化時間が異なることを示している。
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