星・惑星の形成過程の解明には、前主系列星の年齢などを求めることが重要である。原始惑星系円盤の進化過程は、測光観測に基づいて決めた年齢を基に議論されることが多い。しかし、星までの距離や減光量、ベーリングの不定性により、前主系列星の正確な年齢決定は難しい。そのため、原始惑星系円盤の散逸過程を詳細に議論することが困難だった。 本研究では、分光観測に基づく前主系列星の年齢法を用いて原始惑星系円盤の散逸時間を明らかにした。前主系列星は進化と共に収縮し表面重力が増大するため、大気スペクトルから表面重力を求めることで年齢が分かる。近接する吸収線の等価幅比を用いてベーリングに依存しない量を取り出し、それを基に表面重力決定指標を作成し、正確な年齢を求めた。 これまでに、おうし座分子雲の前主系列星10天体の年齢を決め、円盤起因の赤外超過量と比較することで、円盤散逸時間が約240万年であることを導いた(Takagi et al. 2014)。ここでは天体数が10天体と限られていたが、すばる望遠鏡で観測可能な天体をほぼすべて観測し、この領域全体で、1太陽質量程度の天体の円盤散逸時間を導いた結果、Takagi et al. (2014)で導いた240万年で円盤が散逸することが分かった。また、へびつかい座分子雲に属する前主系列星8天体に対しても円盤散逸時間を導いた結果、120万年程度であることが判明した。これにより星形成領域によって円盤散逸時間が異なる可能性があるということを初めて示唆した(Takagi et al. 2015)。この散逸時間の差を生む要因の調査として、観測天体の金属量の決定に取り組んだ。現在のところ2領域間で明確な差は見つかっていないが、今後より詳細に調査を行う。また、平均年齢が300万年であるペルセウス座分子雲の前主系列星も観測し、より普遍的な円盤散逸時間を議論するべく解析中である。
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