研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
26104503
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
天辰 禎晃 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90241653)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子設計 / 計算化学 / 光機能性分子 / π電子共役系 / 分子回転モーター |
研究実績の概要 |
本研究課題においては我々が先に提案した新たな分子設計指針により、エチレノイド分子のシス‐トランス光異性化反応を利用した光機能性分子を理論計算の立場から検討している。平成26年度においては以下2つのテーマについてそれぞれ成果が得られた。 (テーマ26-1)メチレン鎖架橋されたフルオレン系エチレノイドM5-PCPFの光化学的挙動におけるメチレン鎖架橋の配座依存性:M5-PCPFは基底状態においてメチレン鎖の配座に依存して複数の安定な異性体が存在することを以前報告しているが、今回、安定配座間の変換が回転子と固定子がほぼ垂直的に捩じれた円錐交差(CIX)領域において低エネルギー障壁で起きることが分かった。さらに、それぞれの安定配座に対してフルオレン固定子が回転軸に対して縦揺れ振動することにより正方向、負方向にCIXが存在し、緩和後の回転の方向に関して以前報告したフルオレン固定子の縦揺れ振動との関連性が検討したすべての配座に対して成立していることが確認できた(論文投稿中)。また類似の関連性が、エチレン、スチレン、スチルベンのようなエチレノイドの光異性化においてもみられることも分かった(Chem.Phys.Lett.印刷中)。 (テーマ26-2)9-(シクロペンテン-2,4-ジエン-1-イリデン)-9H-フルオレン(CPDYF)の光化学的挙動:回転子に不斉中心が存在しない新規なエチレノイド系分子回転モーターの理論設計を行うため、その親分子となるCPDYFに関し、回転軸となるエチレン結合の捩れ(τ)に関するポテンシャル面をC2対称性下で計算した。その結果、遷移許容な2Aはτ~90°の領域で1Bと交差(S2とS1の円錐交差)し、S1への緩和後のτ捩れの促進および後退により1Aと1Bの交差(S1とS0の円錐交差)がそれぞれτ~60,120°の領域に存在することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画においてはテーマ26-1に関して平成26年度中に論文を公表し、これに続くテーマとして考えていたメチレン鎖長に依存したフルオレン系エチレノイドの光化学的挙動の理論的検討に入る予定であった。しかしながら、現時点では、研究成果の項で述べたようにテーマ26-1の成果に関して論文投稿中の状態であり、研究進度に関して若干遅れが出ている。これは、潜在的に多数存在しうるメチレン鎖の配座のうち、M5-PCPFにおいて現実的に存する安定配座の特定や、安定配座間の変換における規則性を見出すことが想定していた以上に困難で時間を要したためである。 ただ、今回の知見は平成27年度のテーマとなる別のタイプのメチレン鎖架橋を有するエチレノイドの光化学的過程におけるメチレン鎖の安定配座やそれらの間の変換の規則性を見出すにあたり有益であり、進度の遅れを解消すべく以下述べる今年度のテーマに取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(テーマ27-1)メチレン鎖架橋でフェニル捩れを制御した分子回転モーターおよび分子振り子の理論設計:M5-PCPFはP異性体から別のP異性体への直接変換が可能であり、また、ペンタメチレン鎖架橋の配座に由来する異性体間の配座変換が円錐交差(CIX)領域において低エネルギー障壁で、逐次的かつ規則的に行われることから、配座による光化学的挙動への影響を考慮しても、M5-PCPFが光駆動型分子回転モーターとして機能することを確認した。本年度は、CIX領域でのペンタメチレン鎖の配座変換の周回を完了させ、M5-PCPFの光化学過程の全体像の解明を目指す。また、メチレン鎖長が短いテトラメチレン鎖架橋M4-PCPFに関して、現状ではテトラメチレン鎖の自由度の少なさゆえ分子回転モーターではなく、限られた範囲でエチレン結合が捩じれ運動を繰り返す分子振り子として機能する可能性が高いと考えているが、M5-PCPFと同様の配座依存性を解析することにより、その正否を確かめる。 (テーマ27-2)フルオレン固定子とシクロペンタジエン回転子を組み合わせたC2対称性を有する分子素子の理論設計:本テーマにおいてはフルオレン固定子とシクロペンタジエン回転子をエチレン結合で直結したモデル分子(CDPYF)を出発点としてテーマ27-1と同様の指針で分子回転モーターの設計を行う。昨年度の検討で、CDPYFは光異性化においてシス・トランスの生成物を決定する要因が従来よく知られているS1/S0のCIXではなく、エチレン結合がほぼ垂直的に捩じれた領域に存在するS2/S1のCIXであることが分かった。本年度は、この情報をもとにエチレン結合の捩じれに対する回転子におけるフェニル捩じれ運動の連動性、さらにフェニル捩じれ運動を制御するためのメチレン鎖架橋の位置および長さの検討を行い、新規なタイプの分子回転モーターの提案を目指す。
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