研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
26104504
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石橋 孝章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70232337)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ラマン分光 / 振動和周波分光 / 表面・界面 |
研究実績の概要 |
(振動SFG分光)全内部反射振動SFG分光の要素技術として,キラル振動SFG信号を位相情報を含めて測定できるマルチプレックス方式のヘテロダイン検出キラル振動SFG分光装置を初めて開発した.開発した装置は,試料信号と混合される位相基準である局所発振(LO)電場の強度を広い範囲で変化することができるため,試料の信号に応じた適切な大きさのLO電場を混合することで,従来法であるホモダイン検出では困難であった反射配置かつ電子非共鳴条件下におけるキラル信号の検出が可能となった.本装置を使用し,反射配置かつ電子非共鳴条件下でも,液体リモネン試料からエナンチオマーによって符号が反転した良好なキラル振動SFGスペクトルが測定できた.さらに,電子共鳴増強効果による高感度測定について検討した.測定はビナフトール(R-およびS-BINOL)のアセトン溶液に対して行った.BINOLの340 nm付近にある電子吸収に共鳴する条件でHDキラルVSFGを行うことで,20 mMの濃度の溶液からも反射配置で有効な信号を得ることができた.全内部振動分光装置の試料セルを作製し,全内部反射条件下で固液界面における水のOH伸縮振動の振動SFGを測定した. (ラマン分光)作製した全内部反射ラマン分光装置の試料セルは,CaF2の半球プリズム(直径6 mm)とテフロン製の液体試料封入部分からなる.臨界角より僅かに大きい角度でラマン励起光(532 nm)を試料面(プリズム底面)に入射し,試料面の垂直方向に発生するラマン光は,顕微鏡用対物レンズで平行光としたのちマルチチャンネル付き分光器へ導きラマンスペクトルを得た.構築した装置の評価のために,液体メタノールと界面活性剤水溶液(dodecyltrimethylammoniumbromide, 50 mM)の全内部反射ラマンスペクトルを測定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を進めていく途上で,全内部反射振動SFGの要素技術のうち,ヘテロダイン検出が分子のキラリティを検出するキラル振動SFGにも適用可能で有望であることが明らかとなった.キラル振動SFGはタンパク質の二次構造情報に敏感な手法として注目されつつあるが,我々が開発したヘテロダイン検出キラル振動SFGを使えば,絶対的な掌性情報の取得や感度向上などが期待できる.ヘテロダイン検出振動SFGの技術開発に力をさいた結果,当初計画していた,固体ー液体界面に形成した脂質膜の測定までは進まなかったが,全内部反射ラマン,全内部反射振動SFGともに試料部の全内部反射照射系のプロトタイプは作製でき,それぞれ界面活性剤と水からの信号を得ており,次年度以降に脂質膜の測定へと進む準備が整った.総合的に,おおむね順調に進んでいると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
26年度に引き続き,全反射ラマン分光装置および全反射振動SFG分光装置の実装作業を進める.試料調製が容易な溶液中の界面活性剤分子がプリズム面上に自発的に形成する分子膜のCH伸縮振動領域を利用して,装置の最適化と性能評価進めながら,併せて,実装した分光システムを,基板固定脂質二重膜および基板固定脂質二重膜―タンパク質複合体のモデル系の分光へ応用する. 全反射ラマン分光装置に関しては,昨年度の比較的濃厚な界面活性剤水溶液を使った固体ー水溶液の界面の多分子層膜のスペクトルの測定を発展させる.まず,水溶液の濃度を調整し単分子膜レベルまで界面での分子密度を低下させた試料に対して,良好なスペクトルを得られるように,光学系およびレーザーパワー等の条件を割り出す.その上で,生体膜モデルである基板固定脂質膜の分光に取り組む.脂質膜はLB法によってプリズム端面上に構築する.LB膜は水溶液と接した状態でセル中に封入する必要があるので,それが可能なようなセルおよびLB膜製造装置のトラフを開発・作製する.試料作製の技術は,振動SFG分光でもそのまま利用可能である.構築した脂質LB膜のスペクトルを同等な界面密度をもつ界面活性剤試料と,強度やスペクトルパターンを比較する. 全反射SFGに関しては,26年度作製したプリズムー水溶液セルを使用して,実験を進める.26年の時点で固体ー純水界面からのSFGスペクトルは得ている.27年度は,全反射ラマンと同様に,生体膜モデルである基板固定脂質膜のSFGスペクトルに取り組む.ホモダイン測定によって光学系および測定条件を最適化することから始め,その後でヘテロダイン検出へと発展させる.
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