回転分子モーターF1-ATPaseは、固定子の3つの触媒サブユニットβが共同的に順番を守ってATPを加水分解して構造変化することで、回転子サブユニットγを一方向に回転させるトルクを発生する。結晶構造中では3つのβは“open”と“closed”の2つの状態を主にとることが知られている。本年度は、ATP加水分解の遅いβ(E190D)変異体の3つのβの1つに金ナノロッドを結合させ、ATP加水分解が律速となる条件下で構造変化をサブミリ秒で検出することに成功した。Open構造の持続時間の分布は指数関数的減衰でフィットされ、時定数は350 msであった。一方、closed構造の持続時間の分布はピークを持つ山形となり、2つの同一な時定数を持つ逐次反応で良くフィットされ、得られた時定数は321 msとopen構造の時定数とほぼ同程度であった。これらの結果は、ATP加水分解律速条件では3つのβのうち2つは常にclosed構造を取っているという従来のモデルとよく一致する。さらに、openとclosedの中間状態である一過的なhalf-closed構造の検出にも成功した。Half-closed構造はopen-to-closed、closed-to-openの両方の遷移で観察された。それぞれの持続時間の分布は指数関数的減衰でフィットされ時定数として6 ms、21 msが得られた。また、金ナノロッドの角速度と粘性係数から、個々のβが発生するトルクの値を求めることにも成功した。
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