公募研究
プロリン型非天然アミノ酸を用いて生体にない構造規則性を持つヘリックス構造を創製しその構造特性を解析することを目的とする。本アミノ酸は二環性骨格を有する特異な構造を持ち、水素結合による安定を必要としないヘリックス構造をとる短いペプチドの創製を可能にする。一方、本アミドは3級アミドであることからアミド結合のシス-トランス異性化平衡が存在する。また、二環性骨格のひずみによるアミド結合の非平面化を起こす。このように柔らかいアミド構造を有しているペプチドオリゴマーの構造を制御することを目的とする。現在までに、以下の研究を行った。(1)二環性アミノ酸に置換基を導入することによりアミドのシス-トランス異性化を一方に制御し安定なヘリックス構造を創製し、溶媒などの周囲の環境によらない強固なヘリックス構造をとる短鎖ペプチドの創製に成功した。今後は光学異性体の組み合わせや天然のα-アミノ酸との組み合わせによりヘリックス構造ライブラリーを構築する。(2)側鎖架橋によりアミド構造を変化させた場合にアミド結合の平衡や回転障壁が受ける影響を調べた。その結果、側鎖(リンカー)の長さに依存して、シス-トランス異性化平衡やアミド結合の回転障壁が著しく変化する現象を見出した。本結果から、二環性アミド骨格に特徴的な柔らかなアミド結合の概念をさらに深めることが出来ると期待される。本現象の要因について、計算科学などの手法を用いて明らかにして行きたい。(3)MD計算を用いて非平面アミドオリゴマーの規則構造化やそのダイナミックスを調べた。その結果、鎖長依存的にトランスアミド体を持つ伸びた構造が安定化されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
(1)については、現在までに、トランスアミド体をもつ二環性β-アミノ酸のホモオリゴマーの創製に成功し、これが2量体という最小単位から高度に構造化された、伸びたヘリックス構造をとることを明らかにした。当初の計画通りに順調に進展している。今後は、本アミノ酸を天然のα-アミノ酸と結合させた場合の構造的な挙動やアミド結合の化学的安定性について調査する予定である。(2)タンパク質の高次構造形成やその律速段階にプロリンのアミドのシス-トランス異性化が関係することが知られている。現在までに二環性アミノ酸の2量体の橋頭位側鎖間を短いリンカーでつなぐ(stapling)とシスアミド構造がトランスアミド構造に変換可能であること、およびシス/トランス比はリンカーの長さにより制御出来ることを見出した。さらに、アミド構造の柔らかさをアミド結合回転速度の観点から見積もったところ、架橋リンカーが短いほどアミドの回転速度が大きいことが分かった。回転速度がリンカーの長さにこれほど大きく依存することは予想できなかった結果であり、柔らかいアミド結合の創製ともつながる興味深い結果である。今後は全ての誘導体に関して回転速度を測定し、この現象を引き起こす要因についても考察したい。(3)当初計画していた計算内容は既に完了しているが、今後はより信頼性の高い結果を得るために分子軌道計算から決定したパラメータを用いて計算を行い、比較したい。
(1) アミド結合のシス-トランス異性化を一方に制御したヘリックス構造の創製二環性骨格のひずみによりこの分子のアミド結合は非平面アミド構造(窒素ピラミッド化・アミド結合のねじれ)を取る。(i) 水素結合ドナー性を持つ側鎖を導入し、アミドカルボニルとの分子内水素結合を生成させたところ、アミドの窒素ピラミッド化が反転したものが得られることが示唆されつつある。本年度は、スペクトルと計算科学の手法を用いてこの現象を証明し、通常は速い異性化状態にあるアミドの窒素ピラミッド化の方向を制御することを目指す。また、(ii) 天然のα-アミノ酸と二環性β-アミノ酸を結合させたモデルペプチドについて、アミド平衡が一方に偏る一般性を評価する。さらに、ヘリックスミミックとしての応用を意図して、β-アミノ酸をα-ペプチド内に挿入したモデルペプチドの酸/塩基および酵素による加水分解速度を調べ、安定性を見つもる。溶液中の検討に加え、酵素による加水分解安定性も調べる。(2) 側鎖架橋によるアミド結合の柔らかさの制御本年度は温度可変動的NMRの手法を用いて、一連の架橋アミドの回転障壁を正確に見積もる。また、架橋リンカーの長さがシス/トランス比および回転速度を変える理由について、計算科学の手法を用いて解明する。(3) MD計算を用いた非平面アミドオリゴマーの規則構造化の評価については、現在までに、網羅的に構造を探索し、鎖長依存的にトランスアミド体を持つ伸びた構造が安定化されることが示唆された。本年度はパラメータの再検討およびスペクトルのシミュレーションを行いつつ、論文化を行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (3件)
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