研究実績の概要 |
1.all-atom GoモデルをエクスポーターMsbAに適用し、transmembrane domain (TMD)の内向きから外向きへの構造転移の経路を調べた。その結果、この構造転移は、nucleotide binding domain (NBD)は閉じているがTMDはまだ外向きに開いていない中間体(occluded state)を経由して起こるとすると実験結果をよく説明できることが判明した。さらに、この構造転移をアミノ酸残基間のコンタクトの変化として時系列解析することにより、intracellular loop(ICL)がNBDの運動をTMDに伝える役割を果たしていることが判明した。 2.マルトーストランスポーターは、NBDに相当するMalK2, TMDに相当するMalFG、さらに基質をリクルートする役割をするMalEを含めると全部で5つのドメインから成る巨大な蛋白質である。このフルトランスポーターを膜に埋め込んだ系のMDシミュレーションに成功した。その結果、NBDにATPが結合するだけではNBDの二量体化は起こらず、マルトースと結合したMalEが細胞外側のMalF-P2領域に結合したときのみ、二量体化が起こることが判明した。 3.ABCトランスポーターのATP加水分解機構を量子化学的に解明するため、前述したMalK2にATPが結合した状態に対しQM/MM metadynamics計算を適用し、加水分解反応の自由エネルギー曲面を得ることに成功した。その結果、活性化エネルギーの計算値は14.8 kcal/molとなり実験値(16.3 kcal/mol)をよく再現した。反応は、Glu159が一般塩基として近傍の水分子からプロトンを引き抜くことにより開始され、反応全体はいわゆる”dissociation model”に従うことが明らかとなった。
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