研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
26104515
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鳥居 肇 静岡大学, 教育学部, 教授 (80242098)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | タンパク質 / 水 / 振動スペクトル / 強度 / 理論 |
研究実績の概要 |
タンパク質と水の相互作用などを実験的に検出するための一手法群として,振動分光は広く利用されており,その正しい解析のために不可欠な,スペクトル上の特徴と分子間相互作用・構造・ダイナミクスを関係付けるための理論的基盤が,構築されつつある。しかし,現在の計算の枠組みに不十分な点があることが明らかとなっており,改良を続行する必要がある。 平成26年度には,ペプチド基のアミドⅠモードの振動数シフトが,ペプチド基と水分子の相対的配置とどのように相関するかについて,特に距離依存性と角度位置依存性を分離して解析した。その結果,(1) 振動数シフトはC=O...Hが直線形から離れるにしたがって大きくなり,C=O軸にほぼ対称的であること,(2) この角度位置依存性は,従来の静電相互作用モデルでは十分に表現できないこと,(3) 新たに考案した理論モデル構築方針により,これを十分に表現できるモデルが構築できること,を明らかにした。特に,角度位置依存性を表現するために必要なベクトル量の素性(符号関係など)を解明し,10年以上に亘り多くの研究者によって様々に進められてきたモデル構築を収束に向ける成果が得られた。また,この知見をもとにスペクトルのシミュレーションを実施することが可能な,ソフトウェアの改良を実施した。これらと並行して,電子密度微分解析の手法により,アミドⅡモードの赤外強度の2次構造依存性における (a) 溶媒水分子の配置(特にN-H周りの角度位置)への依存性,および (b) ペプチド鎖長への依存性,を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
10年以上に亘り多くの研究者によって様々に進められてきたモデル構築を収束に向け,今後の正確なスペクトルシミュレーションに繋がる成果が得られたことから,「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,今年度の成果に基づき,水溶液中のペプチド鎖・タンパク質を対象として1次元・2次元赤外スペクトルのシミュレーションを実施し,スペクトル上に観測される「水和へリックス」の正体を明らかにするととともに,2次構造に関する参照系ともいうべきrandom coilの構造とスペクトルの相関の解析も実施する。「アミドⅡモードの赤外強度の2次構造依存性における溶媒水分子の配置およびペプチド鎖長への依存性の解析」については,成果公表に向けて,解析の最終段階を実施する。「DNA塩基対の水素結合欠陥・揺らぎを検出するための理論的基盤の構築に向けた解析」についても,引き続き進めることとする。
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