公募研究
本研究は、ランタノイド錯体を始めとする柔らかな配位構造を持つ系をターゲットとし、そのような系の触媒反応や光反応の機構を解明することで、構造揺らぎと反応性の関係について明らかにすることを目的としている。平成26年度は、柔らかな触媒として、不斉DODP配位子を持つランタノイド錯体に着目し、これを触媒とする水溶媒中での向山アルドール反応の立体選択性発現機構を明らかにした。従来の硬い構造を持つ触媒と決定的に異なるのは、触媒の構造が揺らぐという点である。Eu-DODP錯体の場合、3種のコンフォマーが共存しており、さらに、各コンフォマーが異なる立体異性体の生成を促進していた。そのため、反応の立体選択性を向上させるためには、マイナーな立体異性体の生成を促進するコンフォマーの存在比率を低下させなければならない。これを可能にする最も簡単な手段は、ランタノイドの種類を変えることである。Euよりもイオン半径の大きいランタノイドを用いると、配位子の構造の自由度がなくなっていき、1つのコンフォマーのみが高い存在比率を持つことができると分かった。さらに、ランタノイド錯体の発光・消光過程におけるエネルギー・構造変化を簡便に調べるエネルギーシフト近似法を提案した。これを用いることで、ランタノイドの発光強度が温度に依存することを利用した温度センサーの機構や、温度に対する敏感さが配位子によって異なる理由を説明することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の目標であったランタノイド不斉触媒を用いる水中での向山アルドール反応の立体選択性発現機構を明らかにし、論文を投稿する段階まで到達できたため、計画通りのスピードで順調に進展していると言える。また当初の計画にはなかった、ランタノイド錯体の発光・消光の機構を調べる近似的計算方法の提案をし、領域内での共同研究を開始することができたので、この点は計画以上に進行しているといえる。
今後は、当初予定していた柔らかな触媒反応の機構解明に加え、26年度に新たに着手したランタノイド錯体の発光・消光過程の研究についても、進めていくことを予定している。【柔らかな触媒反応について】26年度に引き続き、不斉C-C結合生成反応の立体選択性発現機構の解明に注力する。特に、不斉Fe錯体を触媒とする向山アルドール反応及び、Pd触媒を用いる重合反応に着目する。様々な触媒反応の機構を調べることで、構造揺らぎと反応性・立体選択性の関係について包括的に理解することを目指す。【ランタノイドの発光・消光について】26年度は、Tb錯体の発光・消光過程に着目したが、今後は、多種類のランタノイド(TbとEuなど)を含む材料におけるランタノイド間の励起エネルギー移動(EET)やランタノイドと配位子の間のEETの速度を制御する配位子デザインを理論計算の立場から行うことを目指す。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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