研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
26104521
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺尾 潤 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00322173)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シクロデキストリン誘導体 / 分子内電荷移動度 / 分子ワイヤ / フェニレンエチニレン / 燐光発光 / 配位重合 / 薗頭カップリング / メタロポリマー |
研究実績の概要 |
オリゴフェニレンエチニレン骨格を有するゲスト分子に2つのシクロデキストリン誘導体がホスト分子として連結した分子を合成した。極性溶媒中における親水疎水相互作用により形成した自己包接錯体に対し、エチニル基あるいはピリジル基を有するヨードベンゼン誘導体を用いて薗頭カップリング反応を行い、両末端にエチニル基およびピリジル基を有する被覆共役モノマーをそれぞれ合成することに成功したピリジル末端被覆共役モノマーに対し、白金(II)錯体あるいはルテニウム(II)錯体との一次元的な錯化重合をそれぞれ行うことによって、含金属被覆型分子ワイヤを合成した。得られた被覆型分子ワイヤは、導入された金属錯体及びその結合様式に由来する特異な光学・電気的特性を発現した。すなわち、共有結合によって白金(II)錯体を導入した分子ワイヤは燐光発光特性を示し、配位結合によってルテニウム(II)錯体を導入した分子ワイヤは固体状態において炭素共役系に匹敵する高い分子内電荷移動度(0.22 cm2V-1s-1)を示すとともに、配位結合に基づくポリマーとモノマーの可逆的な変換を実現した。両末端にエチニル基を有する被覆共役モノマーと白金錯体との共重合反応によって,被覆個所や割合の異なる白金アセチリド型の被覆型ポリマーを合成した。これらのポリマーにおける被覆の効果を調べるために,希薄溶液中および近接分子との相互作用が強く働く固体状態における発光スペクトルを測定した。その結果、被覆型ポリマーは対応する非包接型ポリマーに比べ、高い燐光発光量子収率が得られた。また,被覆型ポリマーは固体状態でも分子間相互作用が抑制された結果,希薄溶液中と同様に強い燐光発光が観測された。さらに, その量子収率及び発光波長は希薄溶液中の値と同程度であったことから, 固体中でも単一分子の独立性が維持され, 単分子として燐光発光したことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、分子内スリッピングを導入した新手法により電荷移動特性の高い被覆共役分子の合成法の開発に成功すると共に、本法を応用し、固体中において燐光発光特性を示す被覆型白金アセチリドポリマーの合成に成功した。また、被覆型共役分子を無機固体材料表面上に単分子性を保持した状態で高密度に導入することに成功した。この様に、当初の研究計画を着実に遂行し成果をあげており、最終目標としている高い電荷移動特性を利用したナノ分子デバイス作製は大いに期待出来る。また、合成した被覆型分子ワイヤの燐光発光特性、自己修復機能、pHセンシング能等、数々の新しい知見も創出しており、研究開始時と比べ期待以上の研究の進展があった。さらに、論文及び学会発表を積極に行い、主著者としてJournal of American Chemical Society誌に本研究成果を掲載した。
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今後の研究の推進方策 |
金属-アルキニルポリマーは合成が簡便であり、高い安定性を示すことが知られている。そこで8、9族金属元素の導入を目指し、両端にエチニルスタニル基を有するOPE骨格の被覆モノマーを合成する。その後、金属錯体とのトランスメタル化により、金被覆型金属-アルキニルポリマーの合成を試みる。得られたポリマーはTRMC法により分子内電荷移動度を測定し、金属の違いが与える影響を評価する。続いて、アリールスタニル基を有するモノマーと金属錯体とのトランスメタル化により、sp2炭素と金属の共有結合を有するポリマーを合成する。また、ピリジル基を有するモノマーを利用して配位結合を有するポリマーを合成する。この2種類のポリマーと、sp炭素と金属の共有結合を有するポリマーとの比較により、結合様式の差が分子内電荷移動に与える影響を明らかにできる。さらに主鎖骨格をOPEからオリゴパラフェニレン(OPP)、オリゴフェニレンビニレン(OPV)、オリゴチオフェン(OTh)へと変換した被覆型分子ワイヤへと展開し、配線材料として最適な主鎖骨格を調査する。これら系統的な探索により、高い電荷移動度を発現する配線材料の設計指針を提示する。
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