研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
26104523
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大洞 光司 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10631202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酵素 / 蛋白質 / 分子動力学計算 / ヘム / 立体選択性 |
研究実績の概要 |
柔らかな反応場であるタンパク質マトリクスと高活性な金属錯体から構成される人工金属酵素について、その論理的設計に関する革新的かつ実用的な手法を創出し、実験化学的に示すことを目的として研究を遂行した。本年度は当該研究の初年度であるので、特に人工金属酵素調製法の確立とその詳細な同定を実施した。反応場を与えるタンパク質として、扱いの容易な酸素貯蔵ヘムタンパク質であるミオグロビンを選択し、調製・精製した。一方で、活性中心になる人工補因子として、ヘムの配位子部分であるポルフィリンの類縁体、ポルフィセンやコロールの金属錯体を合成した。 金属には、貴金属ではない鉄やマンガンを用いた。ヘムタンパク質補因子置換法(再構成法)に基づき、ミオグロビンからヘムを除去し、人工補因子を挿入し、これらの複合化を行った。精製はイオン交換クロマトグラフィーやサイズ排除クロマトグラフィーを用いて実施した。得られた人工ヘムタンパク質に関しては、可視紫外吸収スペクトルや電子スピン共鳴法(EPR)、 X 線結晶構造解析を用いて構造の同定を実施した。過酸化水素駆動によるエチルベンゼンの水酸化触媒活性をガスクロマトグラフィー法(GC)により評価した。他のミオグロビン改変体や補因子のみでは全く触媒活性を示さないが、約15回程度の触媒回転数を確認した。また立体選択性についても、キラルカラムを用いて評価したところ14%eeであった。立体選択性を向上させるために、分子動力学計算を用いた変異体設計を予備的に実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工補因子の合成等に当初の予定よりも時間はかかったものの、最終的に活性のある錯体を設計、合成することができた。タンパク質への挿入の効率もよく、同定に関しても結晶構造解析等を用いて原子レベルで行うことができた。触媒反応に関して、エチルベンゼン等の不活性C-H結合の水酸化反応は比較的難易度が高い反応が進行し、またタンパク質マトリクス内でなければ、進行しない点は非常に興味深い。立体選択性については高くはないものの、ある程度見られているため、変異導入により向上することが期待される。立体選択性をさらに向上させるための変異体の調製については、次年度に向けて、大腸菌を用いや発現系や精製法など予備的な準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、作成した人工金属酵素の触媒活性の評価において得られた結果をフィードバックし、より高機能な人工金属酵素を設計し、実際にその調製および評価を実施する。反応場にはヘムタンパク質であるミオグロビンを用いて、ヘムタンパク質補因子置換法(再構成法)に基づき、ヘムを除去したアポタンパク質に人工補因子であるマンガンポルフィセンを挿入したものを基盤にして進める。今後は特にタンパク質側の変異による高機能化を狙うので、分子動力学計算を利用した変異体設計と遺伝子工学的手法による変異導入を高効率に行う必要がある。得られた人工金属酵素について過酸化水素駆動によるエチルベンゼンやシクロヘキサン、さらにそれらの誘導体等を基質とした水酸化触媒活性をガスクロマトグラフィー法(GC)により評価する。さらに立体選択性について、キラルカラムを用いて評価し、分子動力学計算を用いた設計の有用性を評価する。特に計算と実験結果の相関を確かめるためには複数のサンプルが必要であるので、20種類以上の変異体の評価を実施する。
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