研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
26104525
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
井原 栄治 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (90243592)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ポリ(置換メチレン) / ジアゾ酢酸エステル / 官能基集積型高分子 / 光機能性高分子 / 光物性 |
研究実績の概要 |
ピレンをエステル部に有するジアゾ酢酸エステルを合成し、そのパラジウム(Pd)錯体を開始剤とする重合により、ピレンが炭素-炭素結合からなる主鎖の周囲に集積したポリマーを合成した。ポリマー主鎖のエステル部とピレンとを結合するスペーサーの長さが異なる3種のモノマーを用いることにより、そのスペーサー長がポリマーの光物性に与える影響を検討した。 スペーサーが(CH2)4およびCH2のポリマーでは、対応するアクリレート型のポリマーに比べて、[エキシマー発光]/[モノマー発光]の値が大きく増加していることを確認した。これに対して、スペーサーを介さず、エステル部にピレンが直接結合したポリマーでは、逆の傾向を確認した。以上の結果から、適度なスペーサー長を介して結合したピレンを主鎖の周囲に集積させることにより、エキシマー発光効率を増大させることができることが明らかとなった。また、エキシマー発光効率の増大に伴い、蛍光寿命は長く、量子収率は高くなることも確認している。ピレンの主鎖周囲への集積が、光物性に大きな影響を与えることを明らかにした。 ホスファゼンやデンドロンといった立体的に嵩高い置換基を有するジアゾ酢酸エステルの、Pd錯体を開始剤とする重合がリビング的に進行し、分子量の揃ったポリマーが得られることを明らかにした。立体的に嵩高いモノマー間でのブロック共重合も効率良く進行した。 水酸基を有するジアゾ酢酸エステルの重合により、主鎖のすべての炭素に水酸基が結合したポリマーの合成に成功した。このポリマーは、水酸基の集積効果により、対応するビニルポリマーよりも高い極性を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに、3種類のピレンを有するジアゾ酢酸エステルの合成と、それらの重合による主鎖の周囲にピレンが集積したポリマーの合成に成功した。得られたポリマーの光物性を測定し、対応するビニルポリマーの光物性との比較を行い、ポリマー主鎖周囲へのピレンの集積が、光物性に与える影響を明らかにすることに成功した。 また、嵩高い置換基を有するモノマーがリビング的に重合するということを見出したが、これは今後のジアゾ酢酸エステルの重合による機能性高分子の開発研究において、大きな意義を持つ結果である。さらには、水酸基を有するジアゾ酢酸エステルの重合により、新しい水溶性ポリマーの合成にも成功した。 以上のように、ジアゾ酢酸エステルの重合により得られるポリ(置換メチレン)を、柔らかな分子系として応用し、様々な機能性高分子を合成するという本研究計画の目標達成のために、極めて重要な研究成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
既に合成に成功したピレン含有ポリマーについて、さらに詳細な光物性の測定とその測定結果の解析を進める。これにより、ポリマー主鎖周囲へのピレンの集積が光物性に与える影響をさらに詳細に明らかにする。 BODIPYを有するジアゾ酢酸エステルの合成とその重合によるBODIPYが集積したポリマーの合成を実施したが、得られたポリマーの有機溶媒への溶解性が低く、ポリマーの構造分析および光物性の測定を十分に行うことができなかった。そこで、BODIPYに結合した置換基を変えることにより、溶解性の向上したポリマーの合成を試みる。 さらには、アントラセンを始めとする光機能性官能基を導入したモノマーの合成と、その重合による官能基集積型高分子の合成を試みる。 上記のものを含めた各種の置換基を有するジアゾ酢酸エステルの重合を制御することにより、分子量やモノマー配列の制御されたポリマーを合成し、その機能性材料としての応用を試みる。
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