本研究では,時間分解赤外円偏光二色性(VCD)分光システムを開発し,過渡分子種に応用することを目的とする.この分光法では,過渡分子種の絶対配置を決定できるため,分子構造変化だけでなく,その方向まで明らかにできると考えられる.開発したシステムの性能評価と方法論の検証を行い,領域内共同研究を推進する. 平成27年度には,主に以下の3つの研究を行った. (1) 赤外円偏光二色性(VCD)分光計とラマン光学活性(ROA)分光計の立ち上げと応用:分子振動に基づいて光学活性分子のキラリティ(絶対配置)を識別する代表的な2つの分光手法であるVCD分光計とROA分光計を立ち上げた.現在,定常(CW)光照射下での不安定分子種のVCDスペクトルの測定や,溶液試料をフローして,CWのポンプ光とプローブ光を,それぞれ,上流と下流に照射することで時間分解した過渡ROAスペクトルの測定に取り組んでいる. (2) フェムト秒時間分解赤外マルチチャンネル分光システムと近赤外光励起ナノ秒時間分解ラマン分光システムの製作:広帯域フェムト秒赤外光パルス(プローブ光)をMCTアレイ検出器(64素子×2列)で検出するフェムト秒時間分解赤外マルチチャンネル分光システムを製作した.これを用いて,光励起によって結合開裂とその後の分子内回転を起こす高速フォトクロミック分子の光励起にともなう逐次的な分子構造変化を明らかにした.また,近赤外光(1064 nm)をラマン励起光(プローブ光)に用いたナノ秒時間分解ラマン分光システムを製作した.アントラセン誘導体のS1状態の過渡ラマンスペクトルは,TD-DFTと有限静電場法を用いて計算したスペクトルによって良く再現された. (3) ROA分光法によるヘリセン誘導体の絶対配置の決定:すでに立ち上げたROA分光計(上記(1)参照)を用いて,螺旋不斉を有するヘリセン誘導体の絶対配置の決定を行った(領域内共同研究).
|