公募研究
本研究は、生体分子の機能とは、その構造が持つ柔らかさを応答関数とした外部刺激に対する応答と定義し、その作動原理を明らかにすることを目的としている。そのために、分子動力学(MD)シミュレーションと、溶液X線散乱(SAXS)や原子間力顕微鏡(AFM)といった実験を組み合わせることにより、定まった立体構造を持つ酵素のドメイン運動から、解けた構造で機能する天然変性蛋白質の機能的動きまで、様々な柔らかさの階層を持つ動的構造の可視化を行っている。1. 生体分子の機能的動きを制御する水和構造変化の解析本年度は、ドメイン運動を行う酵素の例としてグルタミン酸脱水素酵素(GDH)を対象として、その作動原理を調べてきた。GDHは、2つのドメインに挟まれた活性クレフトを有するサブユニットが6個会合した構造を持つ。MD及びにAFMを併用した手法により、GDHは基質非結合状態において既に、基質を認識する動きであるドメイン間が閉じる運動を行っていることを明らかにした。さらに、MDトラジェクトリーの詳細な解析により、活性クレフトの奥にて起きる協同的な脱水和がドメイン運動を引き起こしていることを明らかにした。2. MD-SAXS法による天然変性蛋白質の構造形成過程の解析研究代表者はこれまでの研究において、SAXSとMDシミュレーションを組み合わせた構造解析法(MD-SAXS法)を開発してきた。本年度は、MD-SAXS法を発展させ、天然変性蛋白質であるATP合成酵素F1-ATPaseのepsilonサブユニット(TF1e)の機能的構造揺らぎの解析を行ってきた。TF1eはATPが結合することによって天然変性領域の立体構造が形成される。定まった構造を持たないTF1eがATPを認識する機構をMD-SAXS法を用いて解析したところ、ATP非結合状態にてすでにATP結合サイトのみが緩く形成されていることが明らかになりつつある。
2: おおむね順調に進展している
従来の研究では、水は生体分子にとって環境として必要であって、生体分子の機能に能動的には関わっていないと考えられてきた。そのため、生体分子の機能的動きを調べたこれまでの研究では水分子の役割は重要視されておらず、機能的動きの様子を明らかにすることができても、その動作メカニズムまでは未だ明らかになっていなかった。これらの研究に対して、生体分子の機能的動きが水分子によって制御されていることを初めて示した本研究の成果は、生体分子機能における水分子の役割は能動的なものであることを示した初めての研究事例である。したがって、本研究は生命現象における水分子の役割について新しい考え方を提案するものであり、これらの研究成果を論文として纏めているところである。
前年度は、分子動力学シミュレーションや原子間力顕微鏡を用いて、水分子がGDHの機能的動きを制御する様子を明らかにしてきた。本年度前半は、GDHの変異体を用いた酵素活性測定により、計算結果の検証を進める。それと同時に本研究成果について論文作成を進める。本年度後半は、GDHよりもさらに柔らかい動的構造を持つ天然変性蛋白質TF1eの動的構造解析を進める。前年度まで進めてきたMD-SAXS法による動的構造解析では、天然変性蛋白質の構造アンサンブルを計算するために、人工的ポテンシャルを加え観察したい構造空間を選択することを行ってきた。この方法では観察する構造空間の選択という恣意的操作が入るため、今年度はより自然かつ効率的な構造サンプリング法であるマルチスケール・サンプリング法をMD-SAXS法と組み合わせた方法を開発する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
PLANT CELL PHYSIOLOGY
巻: in press ページ: in press
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