研究実績の概要 |
ミュー粒子異常磁気能率(muon g-2)の実験値と標準模型の予言値の食い違いを新物理によって説明しようとするとどのような標準模型を超える物理の可能性があるのかを研究した。 まず、JHEP1403, 105 (2014) (Harigaya, Igari, Nojiri, Takeuchi, Tobe)で指摘した(ミューオン数ータウオン数)をゲージ化した新U(1)対称性を持つ理論を考えた。我々が指摘したmuon g-2を説明できるパラメータ領域がニュートリノ-トライデント生成実験から制限を受けているという指摘(Phys. Rev. Lett. 113, 091801 (2014) W. Altmannshofer et al.)があったので、その制限を考察し、今まで解析で無視されてきたゲージボソンの運動項混合の効果が重要になる可能性を研究した。このモデルは、高エネルギーでこの運動項混合がゼロだとしても、低エネルギーで有限補正が生ずるので、この影響を調べ、新ゲージボソン質量のさらなる制限を明らかにした。 また、我々の論文Phys. Rev. D78, 055018 (2012)(Kanemistu, Tobe)で研究したように、新物理がmuon g-2に寄与を与えるとき、大きなカイラリティー反転を持つような模型は比較的容易にmuon g-2のアノマリーを説明できる。そのような模型の一例として、2 Higgs doublet modelでμーτフレーバーの破れがある模型を考えた。(arXiv:1502.07824, Omura, Senaha, Tobe. JHEPに掲載決定) μーτフレーバの破れはCMS実験でヒッグス粒子がμτに崩壊している現象を幾つか見つけていることから、それも同時に説明する領域があるかを解析した。そのような領域は存在し、将来のB-factory実験でのτ to μγの探索でこの模型が検証できる可能性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミュー粒子異常磁気能率のアノマリーを説明できる標準模型を超えた理論を幾つか考察してきたが、その一つとして、標準模型の簡単な拡張である 2 Higgs doublet modelでμーτフレーバーの破れを持つモデルがあることを発見した。(arXiv:1502.07824, Omura, Senaha, Tobe. JHEPに掲載決定) μーτフレーバーの破れはCMS実験で、ヒッグス粒子がミュー粒子とタウ粒子に崩壊した現象が観測されていることも説明できるため、面白い可能性である。つまり、muon g-2アノマリーとヒッグスのμτ崩壊の2つの標準模型では説明できない現象が結びついているというのは、非常に興味深い。このCMS実験のμーτフレーバーの破れの現象は、まだATLAS実験では追認されていないので、今後の実験結果は重要である。さらにこのような模型が本当だとしたら何を予言するか、を明らかにすることは重要である。我々が明らかにした特に重要な予言としては、τ to μγの崩壊現象がある。これは将来のB-factoryで観測可能であるかもしれないことを示唆しているので、LHC実験とあわせてこの模型にとっては重要な実験となることであろう。
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