研究領域 | 先端加速器LHCが切り拓くテラスケールの素粒子物理学~真空と時空への新たな挑戦 |
研究課題/領域番号 |
26104707
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
越智 敦彦 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40335419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 粒子測定技術 / LHC実験 / ATLAS / MPGD / ガス放射線検出器 |
研究実績の概要 |
本研究では、LHC のPhase-II アップグレード(2022年)の導入を目指した2.5 < |η|<4 の範囲(ηは擬ラピディティー)に設置するミューオン前方検出器の開発を目的とする。ATLAS 実験で、これまでより小散乱角(|η|>2.5)のミューオンに対して探索範囲を広げることで、H → 2μやH → ZZ → 4μに代表されるミューオン主体のイベントへの感度の増加や、ETmiss のより正確な測定から標準模型の精密検証に大きく寄与することが期待されている。しかしこの領域の検出器は高入射粒子許容量と軌跡を十分に分離できるだけの高位置分解能を併せ持つ必要があり、新たな検出器開発が望まれる。本課題では、高入射許容量を持つ検出器としてマイクロパターンガス検出器(MPGD) の開発を行う。 本研究期間である平成26年度から2年間では、前方検出器実現に向けた基礎的な開発が中心的な課題になる。開発初年度となる26年度では、ATLASに用いるMPGDとして開発実績のあるマイクロメガス検出器のデザインを用いて、高抵抗型MPGD検出器の安定動作に関する研究を行った。10cm角の小型MPGDを炭素スパッタ法により作成し、Be(d,n)B 反応による高速中性子を照射することにより試験した。この結果、高抵抗電極を用いたMPGD(1次元マイクロメガス)では、10^6n/cm^2/s の中性子照射下の状態でも安定に動作できることが確認できた。 また一方で、ATLAS 実験で用いる場合に必須となる大型検出器作成のための試作研究も行った。高ηの前方検出器のサイズは、ATLAS NSW近辺に置く場合で半径約1mに相当するため、1m超のサイズの抵抗電極パターンを炭素スパッタ法により試作した。この結果として、抵抗値コントロールには若干課題が残るものの、良質の大型抵抗薄膜を開発することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATLASの前方μ粒子検出器では、非常に高いハドロンバックグラウンドが予想されるため、本検出器の開発では、同様の環境下における動作試験が重要になる。研究初年度では、一次元型のマイクロメガス検出器に高抵抗電極を付けたものを用いて中性子照射下の動作試験を行い、安定に動作することを確認できた。 これと同様の技術は ATLAS Phase-I upgrade におけるNSWのマイクロメガス検出器でも用いられており、一般に1MΩ/□程度の表面抵抗値のものを用いる。しかし前方検出器で用いるためには NSW よりさらに高い放射線レートで使用することから、表面抵抗値としてさらに低いもの数十kΩ~数百kΩ/□を用いる必要がある。本年度の研究の中で、炭素スパッタによる高抵抗電極作成時に、窒素を若干ドープすることで抵抗値を下げる方向にコントロールできることがわかった。炭素スパッタは、大面積かつ高精度な電極を作る上で非常に有望な技術のため、これまで困難であった低抵抗値の実現が新たに可能となったことで、前方検出器実現のための技術的な障壁が一つ取り除かれたことになる。 また、実際に炭素スパッタ法で大面積の電極を精度よく製作することも、技術的な障壁の一つであったが、これも大型のスパッタ施設を持つ企業や基板メーカーとの協力のもとに試作に成功した。 以上より、本課題研究の現在までの達成度は、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前方検出器では二次元読出しや、位置分解能を上げるためのさらに高密度の電極構造が必要となることから、これまでの一次元マイクロメガス構造から、高密度のμ-PIC型検出器の開発を進める必要がある。そのため、今年度はμ-PICを、炭素スパッタ技術と組み合わせて開発し、読出しとしても二次元化、可能ならば3軸読出しとしてストリップ毎のパイルアップを低減させるための検出器デザインとしたものを開発し、高入射粒子線下で動作テストを行う。また、位置分解能の向上も目指し、これまでの研究で前方μ粒子検出器に必要とされることがわかってきた、数十μm 程度の分解能を実現させるために、高密度に信号ピクセルを配置させるための基礎的な研究、及び試作も行っていく。 μ粒子前方検出器は、HL-LHC計画の中では実現するかどうかは、予算的な原因で不透明な所もあるが、ガス検出器を用いた本研究により、低コストで実現できることを可能な限り示し、採用を目指す。
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